生活困窮者が路上生活を抜け出せない負のカラクリ路上生活者など生活困窮者の生活は、なかなか改善されづらい仕組みが根付いてしまっている

今年2015年、住居と暖房に関する生活保護費の引き下げが行われた。生活保護世帯をふくめた生活困窮者を中心に「健康で文化的な住」が脅かされようとしている。

今回は、基本的な「住」と社会の姿を改めて再考すべく、稲葉剛氏(市民活動家・立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授)にお話を伺った。

劣悪な住まいでも
「転居」が許されない生活保護世帯

――ご無沙汰しています。2015年7月より生活保護費の家賃補助(住宅扶助)が、10月からはさらに暖房費補助(生活扶助の冬季加算)がそれぞれ削減されています。劣悪な居住環境で暖房費がかさめば、その他の生活費が食費を中心に圧迫されることになります。人間の生活の基本は、「住」ではないかと思います。路上生活者支援にも長年関わって来られているお立場から、いかがでしょうか?

生活困窮者が路上生活を抜け出せない負のカラクリ稲葉剛(いなば・つよし)氏
1969年、広島市生まれ。東京大学教養学部卒。1994年より東京・新宿を中心に路上生活者支援活動に取り組む。2001年、湯浅誠氏らと共に自立生活サポートセンター・もやいを設立し、幅広い生活困窮者の相談・支援活動を開始。2014年、一般社団法人つくろい東京ファンドを設立し、空き家・空き室活用による低所得者支援を事業化。2015年、立教大学大学院特任准教授に就任し、貧困・社会的排除、居住福祉論を教える(稲葉剛公式サイト:プロフィールより)。
Photo by Yoshiko Miwa

 住は「大切」というよりも、住まいそのものが基本的人権です。日本ではなかなか、この「住まいは基本的人権である」という考え方が理解されにくいのですけれども。

――住に関する問題を抱えていない方は、日本には、ほとんどいないかもしれません。持ち家にしても賃貸にしても、個人や家族単位で住を確保し続けるのは大変です。

 もともとの住宅市場にも、問題がありますね。入居するためのコスト、特に賃貸住宅の初期費用が大きいとか、不利な条件を抱えた方は賃貸アパートへの入居が難しいとか。生活保護の方が、いったん住み始めたアパートに問題が発生した時、転宅を希望しても、福祉事務所がなかなか転宅を認めないとか。福祉事務所からすれば、「気に入らないから転宅させて」は国民感情が許しません! ということなのでしょうけど、これも初期費用の問題が大きいんです。