ただ、Sさんは社内のベテラン社員として貴重な戦力になっていました。後任を探すのは簡単ではありません。結局、当面の間は社内で複数名が手分けして担当することになったとのこと。「落ち着いたらいつでも戻ってきてほしい」と懇願する上司の言葉は本気ではないでしょうか。では、本当にSさんは辞めるしかなかったのでしょうか?

 介護離職は人手不足の日本経済にとっても大きな損失です。そうしたなか、対策を打つべきと考えた動きはいくつも見られるようになってきました。まず、日本政府は安倍首相が記者会見で提唱した「介護離職ゼロ」に向けた具体策として、寝たきり状態など、介護を必要とする重度の要介護者が少ない費用負担で長期入所できる「特別養護老人ホーム=特養」を増設して入所待機者を少なくし、親などの介護を理由に仕事をやめる介護離職者を減らしていきたいとしています。内閣の目玉政策「一億総活躍社会」の実現に向けて、11月末に決定した緊急対策の柱に位置づけています。

 ちなみに高齢化の進展で特養入所待機者は約52万人に上り、首都圏を中心に慢性的な不足状態に陥っています。施設の増設のため、首都圏にある国家公務員宿舎の跡地を介護施設の事業者に優遇して貸し出す方針を決めたほか、介護休業を取得すると「介護休業給付金」を受給できます。厚生労働省の資料でも「介護に直面しても仕事を続ける」意識が重要としています。

 誰にも相談せずに介護離職してしまい、経済的、精神的、肉体的により追い込まれてしまうこともあります。介護休業は「対象家族1人につき、一の要介護状態ごとに1回、通算で93日取得できる」のですが、「自分が介護を行う期間」というよりは、「今後、仕事と介護を両立するために体制を整えるための期間」と位置付けられています。環境がさらに整うことを期待して介護離職を思いとどまっていただきたいと願います。

「40万人の介護人材不足」が
介護離職問題の解決を揺るがす

 ただ、介護施設を増設するという施策の効果があまり期待できないほど、大きな懸念が1つ残されています。それは介護業界の人材不足です。

「特養増やしても、働く人いない。職員の待遇改善から考えてほしい」

 政府が目指す「家族の介護を理由に仕事を辞める離職者ゼロ」の実現には、介護職に従事する人の離職を止め、新たに従事する人を増やさなければ意味がないのです。