韓国哨戒艦の沈没事件に北朝鮮が関与していたことが明らかとなり、朝鮮半島の緊張がにわかに高まっている。北朝鮮の魚雷攻撃の背景には何があるのか、韓国との武力衝突の可能性はあるのか、米国や中国はどう出るのか、日本は何をすべきか…。ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のアジア部長を務めた経験を持つビクター・チャ・ジョージタウン大学教授に聞いた。
(聞き手・ジャーナリスト 矢部武)

―国際軍民合同調査団は「韓国哨戒艦の沈没を北朝鮮の魚雷攻撃によるもの」と結論づけたが、北朝鮮が軍事挑発を行った本当の狙いは何か。

ホワイトハウス国家安保会議の元アジア部長が見た<br />北朝鮮魚雷攻撃の真相と戦争の本当の可能性ビクター・チャ (Victor Cha)
現在はジョージタウン大学アジア研究プログラムのディレクター。戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員を兼務。米国の対アジア外交、アジア研究の第一人者。2004年から07年までホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)アジア部長として、対韓国・北朝鮮・日本などの外交政策に携わる。また、北朝鮮核問題をめぐる6カ国協議の米次席代表を務める。英オクスフォード大学で政治学修士号、コロンビア大学で博士号を取得。著書に”Nuclear North Korea: A Debate on Engagement Strategies”(2003)、”Alignment Despite Antagonism: The U.S.-Korea-Japan Security Triangle”(1999)などがある。
Photo:ロイター/アフロ

 一つは2009年11月に黄海で起きた南北艦艇銃撃戦の報復であろう。北朝鮮の警備艇が韓国側領域に侵入したため韓国軍艦艇と撃ち合いになり、北朝鮮側の兵士数人が死傷した事件である。

 もう一つ考えられる理由は、韓国の李明博政権に対する威嚇だ。北朝鮮は、李政権が太陽政策を実利・相互主義に転換したことに強い不満を持っている。李明博大統領はビジネスマンとして大成功した人物であり、対北政策もビジネスの論理で考える。つまり、北朝鮮に無条件の援助や投資を行なうのではなく、条件付きできちっとリターンを求めるということだ。その前の10年間、太陽政策のもとで寛大すぎる援助を受けていた北朝鮮にとって、李明博政権の政策は我慢できないだろう。そこで李政権を威嚇し、対北政策を転換させようと考えたのではないか。

―米朝会談の行き詰まりを打開する狙いもあったのか。

 それはないと思う。実はこの事件が起きる(3月26日)直前、米国政府はニューヨークで行われる予定の専門家会議に出席する北朝鮮代表のビザ発給を認めた。ところが北朝鮮が韓国艦を撃沈したことで、ホワイトハウスはビザ発給を停止してしまった。この会議が米朝会談への道を開く可能性は大いにあったわけで、北朝鮮はそのチャンスを自ら潰してしまったのだ。

―北朝鮮は韓国と戦争する気はあるのか。