人の行動は他者に伝染するが、それはストーリーの力によっていっそう広がり浸透する。ストーリーと組織行動学にまつわる興味深い研究結果を報告する。

 

 ミズーリ州の農家で育ったウォルト・ディズニーは、近所の引退した医師ドク・シャーウッドの馬の絵を描いて小遣いをもらってから、絵を描くことへの愛着を育んでいった。後に、新聞の漫画家を経て商業デザイナーとなり、切り絵のアニメーションでコマーシャルをつくる手法を学ぶ。そしてアニメーションに魅了された彼は、自身の製作スタジオを設立、ついにはアニメーションの黄金時代の顔となった。

 私がこの話を聞いたのは数年前、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングにリサーチ・コンサルタントとして加わった時に受けた研修でのことだ。私はその後数週間、仕事がつまらなく感じるたびにこの話を思い出したものだ。

 この例は、シンプルなストーリーでもインスピレーションの源泉になりうることを示している。実際にはその効果はもっと強力であり、ストーリーは人間の判断や行動にまで影響を与える。困難に正面から立ち向かった人の逸話を活き活きと伝えることで、人々の心に長く残るだけでなく、広く伝染していくのだ。

 人の行動が他者に伝染することは、心理学研究では周知の事実である。たとえ「自分はみずからの内なる動機によって動いている」と思える状況でも、例外ではない。

 不正行為の場合を考えてみよう。人は正直であろうと思っていても、他者の不正行為を見るだけで、同じ行動へと引きずられる。私はこの事実を、共同研究者のシャハル・アヤルおよびダン・アリエリーとともに、一連の実験調査で明らかにした(英語論文)

 ある実験で、大学生のグループに対して、4分間という非常に短い時間内で20問の数学の問題を解くよう頼んだ。実際には、その時間内で全問を解ける人はいないはずだ。我々は参加者に、1問解答するごとに謝礼金を支払うこと、何問解けたかは自己申告でよいことを告げた。

 お金はすでに机の上の封筒に入っている。規定の時間が過ぎると、学生は自分の成績を確認し、封筒からお金を引き出し、解答用紙をシュレッダーにかけて、退室する。しかし実験の本当の目的は数学の問題ではなく、不正行為について調べることだった。

 学生たちは問題に取りかかった。すると、1分後に1人(実は被験者のふりをした協力者)がこう宣言した。「全部解けました。どうすればいいですか?」。部屋中の誰もがそんなことは無理だとわかっているので、明らかにインチキだと判断したはずだ。彼は満点を取ったかのように、封筒のお金をすべて手にして退室したが、何のとがめもなかった。

 仲間の不正を見たグループでは、全体の不正行為のレベルが高まった。彼らの自己申告による成績は、平均で20問中約15問正解。別の対照群の成績は、平均で7問正解。両グループを比較し、前者の不正が多いことが判明したのだ。対照群の部屋には演者もシュレッダーもなく、試験官の1人が学生の解答をチェックし、正解数に応じてお金を支払っていた。後日には別の実験で、成績の水増しを確実に見つけるために偽のシュレッダーを使ったところ、不正の増加という結果が再現された。

 この実験からわかったのは、仲間が倫理に反した行動に走るのを見ると、自分にも不正が伝染するおそれがあるということだ。