年金は積極的運用こそが受給者のメリットになる国債100%での運用を主張する人は、分散投資によるリスク低減効果を考慮していない

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は11月30日、2015年7~9月の運用損失が7兆8899億円だったと発表した。世界的な株安の影響で利回りは5.59%のマイナスとなり、安倍内閣が主導した昨年10月の運用改革後、初めての赤字に陥った。

 この報道に対して様々な批判があるようだが、年金の運用は超長期で評価されるべきものであって、四半期の運用成績を云々しても仕方がない。それよりも、筆者がより深刻と考える問題は、GPIFはもちろん、日本の年金全体がオルタナティブ投資、特にプライベート・エクイティ(PE)を積極的に組み入れていないことだ。それによって産業の新陳代謝が遅れ、年金運用のリスク自体も高まっている可能性がある。年金がPE投資をすべき理由をいくつかの観点から説明してみよう。

リスクが高まるのにリターンは見込めず
国債への投資は割に合わない

 年金(公的年金と企業年金では制度設計が異なるが、本稿ではまとめて「年金」と言う)は、超長期の運用を前提としているので、短期のパフォーマンスにはあまり意味がない。それより、長期的にいかにリスク対比のリターンを上げるかということ、そして、年金給付(債務)に見合った資産を維持できるかということが重要である。

 GPIFは経済状況に応じたシナリオを複数公表しているが、メインケースでは4.2%の名目運用利回りが必要とされており、また、企業年金もおおむね2%程度の名目運用利回りが必要である。これに対し、現在の10年物国債利回りは0.32%だし、企業年金がベンチマークにしているのは8年物のインデックスでは0.15%程度だ。すなわち、国債への投資を存置することは、座して死を待つに等しい。

 さらに付け加えると、国債への投資自体にリスクが高まっているという事情もある。日銀による「異次元緩和」がもたらすリスクだ。