スーパーマンの働く店

 長尾が暮らしているのは、店から車で15分ほど走った埼玉県三郷市。金町とは指呼の間にあるから、通勤時間は短い。ただ、その分、彼はモーレツに働く。

 朝早く起きた日は築地に行って鮮魚を仕入れてくる。サワラ、イナダ、イサキ、ヤガラといった魚だ。仕入れたものを携えて昼前には店に出勤。仕込みが始まる。

汁物で〆る酒飲みなら、感涙。<br />“ラーメンの旨い居酒屋”、金町にあり。<br />アイデアに富んだ料理も実に楽しい

 まず魚をさばく。それから野菜、豚肉、鶏肉を使った酒肴を仕込む。ラーメンのスープを2種類作る。ひとつは鶏がら、昆布を使った手打ち中華麺のスープで、もう1種類は魚のだしで作ったものだ。スープを取りながら、麺の製造である。小麦粉を練って、足でもんでから寝かせる。そして、パスタマシーンを使って平打ち麺を作る。

 長尾は言う。

「ラーメン店で働いていた時、パスタマシーンで麺を打っている店が多いことを知ったんです。それで、やってみたらおいしい麺ができました。平打ち麺は手打ちで作っていますが、魚だしスープに使う細麺は秋田の佐藤養悦さんが作ってる稲庭中華そば。これがまた質のいい麺なんです」

 さて、麺の仕込みを終えた長尾はノートパソコンに向かってその日のメニューを書く。驚くことに金町製麺は毎日、メニューが異なる。定番もあるけれど、ラーメンもその日に仕入れた鮮魚で内容を変える。

「サンマをたくさん仕入れた時はサンマのだしにしたり……。仕入れたものを無駄にしないように、魚の骨まで使うようにしています。そうやって、工夫しているから390円でつまみが出せるし、700円で手打ちラーメンを提供することができます」

 メニューを書いた後は置いてある日本酒を検品して、量が少なくなっていれば注文する。日本酒の銘柄を決めて、説明文を添えるのも長尾の仕事だ。

 スーパーマンのように何から何までひとりでやっている。営業が始まったらふたりの従業員がやってくるが、彼らはサービスの担当。刺身、ラーメンなどの料理を作るのは長尾ひとりだ。

「ラーメンはよく出ます。つまみを2品から3品食べて、ビールや酒を飲んで、最後にラーメンという人がほとんど。長居をする人が多いから、お客さんの数は1日に50人くらいかな」

汁物で〆る酒飲みなら、感涙。<br />“ラーメンの旨い居酒屋”、金町にあり。<br />アイデアに富んだ料理も実に楽しい

 確かに、この店ではみんなラーメンをすすっている。よく見ると、平打ち麺よりも、たとえば「サンマの白湯そば」といったその日の日替わり麺を食べている。もしくは、定番の中華そばと日替わり麺をふたつすすっている人もいる。