経営は「経営の教科書」どおりに徹底的に実践するといい <br />Photo by Yoshihisa Wada

全員研修に「経営書の名著」を使う

前回、星野リゾートの基本的な経営方針である「マルチタスク」「フラットな組織」「現場がつくるコンセプト」の話を書いたが、ある人から「星野さん、あの経営方針はどういう経験から編み出されたのですか」と聞かれたことがある。

 確かに現在の経営方針は自分の頭の中で考えてきたが、ゼロから完全なオリジナルとして編み出したものではない。

 結論を先に言ってしまえば、私はドラッカー、ポーターといった経営理論の名著の教え通りに考え、実践しようとしているだけなのだ。

 現場や組織、経営にはさまざまな課題が出現する。予想もしない課題に頭を抱え、十分な対策を打てずにいると後手に回ってしまう。しかし、課題に答えを与えてくれる経営書が、絶対にあるものだ。

「これだ!」と思ったら、その経営理論の言う通りに徹底的に実践していく。「3つのことが必要だ」と書いてあれば、必ず3つやる。2つだけ、などという中途半端なことは絶対にやらない。

 星野リゾートが運営を受託する案件には、再生を期待されるケースが少なくない。受託前には、いろいろな調査をするが、私はいつも、「原因は運営するスタッフにあるのでは無く、経営者がやるべきことをやっていない」と感じさせられる。

 売上が落ちているのであれば、顧客満足度(CS)を高めなくてはならない。ならば、CSをきちんと数値化する調査をしているかといえばやっていない。従業員1人当たりの労働生産性が低いのに対処策を考えようとしてない。経営の本質的な問題は、すべて経営者に凝縮されている。

 さらに、課題を理解していたとしても、どのような対策を打つべきかを見つけられないでいる。だからなのか、会費が何十万円もする「経営セミナー」に多くの経営者が参加したりする。

 しかし、勉強熱心な割には「経営の教科書」を読んでいないのだ。たとえ地方の書店であっても「経営」の書棚にはドラッカーがズラっと並んでいるのに、それを読んでみようともしない。セミナーは何十万円だが、書籍ならばわずか数千円だ。

 星野リゾートの運営手法は、経営の名著を「教科書」として、それらが言う通りに実践し、現場での咀嚼を経て形づくられてきた。

 星野リゾートでは、社員だけでなくパートもアルバイトも、全員が研修会への参加を義務づけられているのだが、この研修の基本となっているのは経営本の名著3冊。マイケル・E・ポーターの『競争の戦略』、デビッド・A・アーカーの『ブランド・エクイティ戦略』、そしてケン・ブランチャードの『1分間エンパワーメント』だ。

 それぞれを、どのように実践しているか紹介していこう。