『週刊ダイヤモンド』12月19日号の第1特集は、「老後リスクの現実(リアル)」です。一般に老後の不安は「金」「健康」「孤立」の“3K”に集約されると言いますが、漠然とした不安に押しつぶされることなく、「自分にとっての等身大の老後」をリアリティをもって考えるためのヒントを用意しました。現役世代こそ読んで欲しい内容です。

 ゆとりある老後のためには1億円が必要! 金融機関などが提案する老後の資金計画には、そんな仰天すべき額が提示されていることがある。

 子育てが一段落して老後の資金について考え始めるのは50代に差し掛かってからだろうが、サラリーマンの生涯賃金が2億~3億円といわれているのに、それから老後のために1億円を用意するなど、到底不可能に思える。

 この1億円という数字について、よく根拠とされるのが、公益財団法人生命保険文化センターが実施する「生活保障に関する調査」の「ゆとりある老後生活費」に関するアンケート結果だ。最新の2013年調査によると1カ月当たり35・4万円。確かにこの金額を65歳から90歳までの25年間で合計すると約1億円になる。

 だが、そもそもこのアンケート、実際の高齢者の声を集めたものではない。実は対象は18~69歳の男女。まだ老後へのイメージが湧いていないであろう若年層にも広く聞いたもの。生活資金は多いに越したことはないが、現実味がある数字とはいえない。

 また、こうした数字を根拠にさまざまな金融商品を薦めながらライフプランを提案する金融機関やファイナンシャルプランナーなどの専門家も、多くはまだ老後を迎えていない現役世代だ。本当に老後の「リアル」を知った上での提案というより、自身や自社の利益に誘導する〝ポジショントーク〟である可能性の方が高い。

 経済評論家の佐藤治彦氏は、「老後に必要な金額など人それぞれだし、何歳まで生きるかでも違うので、『分からない』というのが正解。大手企業にいる30代も、半年後にはリストラに遭って年収が半分になることだってある時代。先は誰にも分からないからこそ、大事なのは備えることではなく〝対処力〟を高めること」と話す。

 例えば、普段の会社の業務に当てはめれば想像がつくだろう。20年間に及ぶ長期計画を、当初見込んだ通りに実施できると考える方が異常だ。思いも寄らない技術革新が起こったり、競合相手が出てきても、柔軟に対処すべきなのはビジネスも人生も同じである。

「そのために大事なのは、お金を〝鎖〟につながず、自由にさせておくこと」と佐藤氏は言う。例えば、固定資産である持ち家より賃貸住宅に住む。病気に備えて毎月何万円も生命保険に払うのではなく、その分は貯蓄する。仮に病気になっても高額療養費制度など公的制度で十分安心で、それでも足りない分を現金で払う方が対処力が高い生活ができるというわけだ。「保険金というのは、困ったときにだけ、しかも制約の多い使い方しかできない。しかし現金なら、幸い大病をしなければ趣味などの楽しいことにも使える。万が一に備えるばかりの人生では、現役時代が全く楽しくない」(佐藤氏)。

 とはいえ、それでも不安が拭い去れるわけではないだろう。しかし、そもそも老後にどれくらいお金が入ってくるか、きちんと把握している人がどれだけいるだろうか。そこをはっきりさせずに、漠然と不安がっても仕方がない。

まず「知る」ことで解消される
漠然とした不安

 老後の収入の柱となるのは、何といっても年金だ。サラリーマンなら厚生年金、公務員の場合は共済年金、自営業であれば国民年金が、死ぬまでもらえる。

 サラリーマンの場合、厚生年金の保険料は給料から天引きされているので、話題になった「未納問題」とは関係ない。「年金不安」が取り沙汰されるが、いくら制度改革が進んだとしても本来もらえるはずの額がゼロになることはあり得ない。仮に8割になったら、7割になったら、という想定をしておくことには意味があるが、その際にも「そもそも幾らもらえるのか」を知っていなければならないのは言うまでもない。

 将来の受給額は現役時代の収入額に応じて変わるので、一概にはいえないが、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」には、保険料の納付実績や将来受給できる年金額の見込みなどが記されている。それらをインターネットで閲覧できる「ねんきんネットサービス」もある。さらに、最寄りの年金事務所に聞けばマンツーマンで詳しく教えてくれる。年金事務所は月に1度、土曜日も開いている。

 また、サラリーマンなら退職時にまとめてもらえる退職一時金や、分割で受け取る企業年金も期待できる。会社が掛け金を拠出して自分で運用する確定拠出年金の制度を導入しているケースもあるだろう。いずれの場合も金額や仕組みは勤め先によって違うので、これも自分で調べるしかない。

 とにかく、まずは「知る」ことだ。それもせずにただ不安がり、金融機関の「公的年金は当てにならない」という常套句を真に受けて、薦められるままに個人年金などの金融商品を買っているとしたら、お人よし過ぎないだろうか。

 ちなみに年金は、65歳を基準に受給開始年齢を最大5年間、繰り上げたり、繰り下げたりすることができる。5年繰り上げて60歳からもらうことにすれば、月々の受給額は30%減、逆に5年繰り下げれば42%増となる。1年ごとに8・4%の上乗せという、元本保証の高利回り金融商品といえる。

 もちろん、受給開始を繰り下げても、ようやく受け取りが始まった途端に死んでしまえば、損する結果になるが、そんなことを心配しても仕方がない。

 むしろ、サラリーマンであれば定年後に働くつもりがあるか、その場合、いつまで働き、どれくらいの収入が見込めるかによって受給開始年齢を検討すべきだろう。

 とにかく、不安は知ることで解消される。根拠なき老後不安のために、今を楽しく生きられないというのでは悲し過ぎる。

「自分にとっての等身大の老後」を
リアリティをもって考える

「週刊ダイヤモンド」12月19日号の特集は「老後リスクの現実(リアル)」です。

 ご存知の通り、日本では世界に類を見ない高齢化社会が進展しています。

 50年前、65歳以上の高齢者1人に対して20〜64歳は9.1人いて、高齢者を若者が「胴上げ」する社会でした。それが現在は高齢者1人を若者2.4人が支える「騎馬戦型」になり、2050年には1.2人で1人を支える「肩車型」の社会がやって来る見込みです。

 若い読者の方々は「冗談じゃない」と思うかもしれませんが、2050年というのは35年後。つまり、そのとき肩の上に乗っているのは、今の30歳以上の世代です。老後は誰に対しても等しくやってきます。

 前ページまでに引用した特集記事にあるように、「下流老人」や「老後破産」といった言葉に象徴されるような、老後不安をあおる情報は世間には溢れています。

 一般に老後リスクは「金」「健康」「孤立」の“3K”に集約されると言います。確かに、この先、何が起こるかわからないだけに、漠然とした不安を抱えてしまうのは仕方がないことですが、記事の結びにもある通り、漠然とした不安は「知る」ことである程度解消されるはずです。

 そのときに大事なのは、平均値や他人の価値観に惑わされたり、極端なケースにばかりおびえるのではなく、他の誰のものでもない自分自身のケースこととして考えることだと思います。

 今回の特集では、いたずらに不安をあおる事例集でもなく、またわかりやすい“答え”としてノウハウ集でもなく、「自分にとっての等身大の老後」をリアリティをもって考えるためのヒントを用意したつもりです。

 必ずやってくる、あなたにとっての老後をどう考えるか。現役世代のうちから向かい合っていくために、今号を是非ご覧ください。