1974年、鹿児島県生まれ。邱永漢氏に師事し、2005年より、チャイニーズドリームを夢見て北京で製パン業を営む荒木さん。北京でPM2.5による赤色警報が出た、まさにその日。荒木さんの周りでは様々な出来事が。市民の不満と不安はつのるばかりだ。
ちょっと遅めの夕食を済ませた頃、妻が携帯電話を片手に「大気汚染で赤色警報が出たみたい。明日は奇数ナンバーの車は走れないみたいよ」と言ってきた。私も自分の携帯電話にメッセージが来てないか確認していると、今度は自宅の固定電話が鳴り、明日の日本人小学校は臨時休校になるとの連絡が入ってきた。
PM2.5の数値を確認すると200をちょっと超えた程度だ。赤色警報は重度大気汚染が連続で3日間以上想定される場合に発せられる。以前からあった規定だが、先週はPM2.5が500を超える状態が連日続いたにもかかわらず、赤色警報が発されず非難の声があちこちから上がっていた。その赤色警報が遂に発令されたのだ。
ナンバー規制は最低3日間続くという。APECや軍事パレードなど、あらかじめスケジュールが決まっているなかでのナンバー規制であればまだ対処のしようもあるが、明日から3日間などと急に言われてもどうにもなるものでもない。罰金覚悟で会社の配送車や社用車の使用を許可した。
翌朝、仕事場であるパン工場にいくと、事務所でスタッフの子どもたちが親の携帯電話片手に遊んでいた。中国は夫婦共働きが多い。急に学校が臨時休校になっても、自宅に一人で置いておくわけにもいかず、仕方なく会社に連れてきたのだ。
パン工場には配達の車や原料を納めるトラックがひっきりなしにやってくる。スタッフや警備員に子どもから目を離さないよう指示するが、正直気が気でない。
午後からは市内にある財務の事務所で仕事をしたが、事務所内でも当然、赤色警報の話題でもちきりだった。出納係の社員は夫が国営企業に勤めており、会社も3日間休みとのこと。自分も休みが取れないか、ちょっとばかり期待しているようだ。
もう一人の30代の事務女性スタッフは、なんと子どもを自宅近所の顔見知りの売店に預けてきたと言う。本人も不安そうにしていたので、特別に早退を許可し子どもを迎えにいかせた。
みなが口を揃えて言うのは「この程度の大気汚染で赤色警報が出ていたら、この先どのように生活していけばよいのか」という、非常に切ないが、切実な問題である。赤色警報を出すのはよいが、その間の生活をどうすればよいのか、そもそもなんでこんなに空気が悪いのか、市民の不満と不安はつのるばかりだ。
遂に出してしまった赤色警報だか、市民に与えたインパクトは大きい。皮肉なことに、警報3日目は学校や公共機関は休みのままだが、PM2.5も100を切り青空がのぞいていた。

(文/写真・動画:荒木尊史)
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