フィリピン 2015年12月18日

空港での「銃弾所持事件」で見るフィリピンの汚職事情

公務員の給与アップ法案が国会へ

 フィリピンで収賄が横行するのは、公務員の給与が安すぎるからだ。その根本問題に手をつけずに対症療法を繰り返しても埒が明かないということで、国家公務員の給与を大幅にアップする法案が国会に提出され、年内可決を目指している。

 民間の給与水準との大きな格差により汚職を必要悪とみなす風潮が強かったが、それを是正して汚職撲滅を目指すという主旨だ。

 ちなみに大統領の報酬は現在の月額16万ペソ(約42万円)が4年後には2.5倍の40万ペソ(約109万円)になる。下級の公務員はアップ率が低く、4年後で20%程度。対象は国家公務員153万人と地方公務員で、国民(就労者)の1割程度が恩恵に預かることになるだろう。

 必要な予算は初年度580億ペソ(約1500億円)、4年間の総額は2258億ペソ(約5900億円)に達する。ちなみにフィリピンの国家予算は約2兆6000億ペソ(約6兆8000億円)だから、その8%に相当する(1ペソ=2.6円)。

 下級公務員あるいは兵士・警官のアップ率はわずかで、相変わらず日本の給与水準の10分の1程度だ。しかし高級公務員や軍・警察の幹部は5分の1程度まで上がり、物価水準のちがいを加味すると日本と大差ない生活水準が維持できるだろう。

 裏を返せば、これら高級官吏の給与・モチベーションを上げて汚職をなくそうということなのだろうが、高級官僚=権力=汚職という構図が見えてくる。

 この話をカーネル(ジェーンの夫で国家警察幹部)に聞いてみた。すると、「これは来年の大統領選を見据えてのことで、選挙戦の前哨戦だ。毎年選挙をやってくれたらいい」とうれしそうな顔をしていた。

 ちなみにカーネルは国家警察の大佐級だから、警部と長官の間くらいの給与をもらっているはずなので、月額3万ペソ(約8万円)増えて、フィリピンで人気のトヨタFJクルーザーの新車(179.8万ペソ、日本円で約460万円)の月賦分くらいが出る勘定だ。

 もっとも、空港警備員などの下級公務員の窮状は変わらず、これで現状が大きく改善するとも思えない。そのためか、荷物をテープでぐるぐる巻きにして不審物を紛れ込ませることができないないようにしている人も目立った。

 空港内の待合室に入るのに荷物検査があるので、外で待つ人も多い。庶民は、警官が銃弾を荷物に忍び込ませて、検査員が発見してカネをせびるという話を信じて疑わない。

空港にはカバンをテープでぐるぐる巻きにしている人もいる【撮影/志賀和民】

(文・撮影/志賀和民)

著者紹介:志賀和民(しが・かずたみ)
東京出身。東北大学大学院修了後、日揮(株)入社。シンガポールをかわきりに海外勤務を歴任。1989年日揮関連会社社長に就任しフィリピンに移住。2007年4月PASCO(サロン・デ・パスコ)取締役。

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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