大切なのは
「言葉やスキル」よりも「気持ち」

 ある金融商品の説明を聞くために、銀行へ行ったときのことです。窓口で対応してくれたのは、まだ若い行員でした。とても緊張している様子が伝わってきましたが、誠実そうな雰囲気に、私は好感を持ちました。

「○○という商品について教えていただけますか」

と私が切り出すと、彼は、

「かしこまりました。それでは、お客様のご要望にお応えするために、いくつかお伺いしてよろしいでしょうか」

と、いくつか質問をしてきました。

 私が質問に答えると、彼はひとつひとつ確認しながら、レポート用紙にていねいなメモを取っていきました。一通りの質問が終わると、彼はメモをじっくりと読み直してから、数種類のパンフレットを持ってきて説明を始めたのです。

 その説明はたどたどしく、お世辞にもうまい説明だとは言えません。でも、私は何の不安も不快感も覚えませんでした。たどたどしい話し方の中に、こちらのことを真剣に考えてくれているということが伝わってきたからです。

 結局、私はその商品の契約をしたのですが、どんなに流暢な説明をされても、彼に感じたような誠意を相手から感じることができなければ、契約することはなかったと思います。

 つまり、私が言いたいのはこういうことです。

 「スキルはコミュニケーションを円滑にしてくれる便利な道具です。でも、スキルよりも大切なのは、相手としっかり向き合う姿勢と、相手を思いやる気持ちです」

 どんなにすばらしいスキルを身につけても、気持ちがまっすぐに相手のほうを向いていなければ、相手と通じ合うことはできません。コミュニケーションを成立させるためにいちばん大切なのは、心を通じ合わせることです。それができなければ、どんなに高度なスキルを駆使しても、コミュニケーションは上滑りのものになってしまうのではないでしょうか。

 話し上手な人でも、口ベタな人でも、いいえ、「自分は口ベタでコミュニケーションに自信がない」と思っている人ほど、相手としっかり向き合う姿勢と、相手のことを思いやる気持ちを大切にしてほしいと思います。