「私大文系」入試が<br />マニュアル人間を生み出す!?<br />――鈴木寛×津田久資対談【第2回】

6刷まで版を重ね、電子版も合わせ3.4万部の売れ行きを見せている『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか 論理思考のシンプルな本質』。

今回はダイヤモンド・オンラインの好評連載「混沌社会を生き抜くためのインテリジェンス」でもおなじみの「スズカン」こと鈴木寛・文部科学大臣補佐官との対談をお送りする。

じつは「灘中→灘高→東大法学部」の先輩・後輩関係にあるという2人。教育改革のプロフェッショナル・鈴木寛氏と、ビジネス教育のスペシャリスト・津田久資氏のトークは「大学入試」や「ビジネススクール」の問題へと展開していく……。(第2回/全3回)

(構成 高関進/写真 宇佐見利明/聞き手 藤田悠)


◆これまでの連載◆

灘高エリート教育の秘密は「幾何と国語」にあった!!
――鈴木寛×津田久資対談【第1回】


私大文系より
旧帝大の試験のほうが優れている!?

――ひと口に教育と言ってもいろいろありますが、なかでも知育の部分では「“学ぶ”から“考える”へのシフト」がカギになってくるというのが津田さん『東大卒』本のご主張だと思います。
鈴木さんは文科相補佐官というお立場にあって、そのあたりはどうお考えなんでしょうか?

「私大文系」入試が<br />マニュアル人間を生み出す!?<br />――鈴木寛×津田久資対談【第2回】鈴木 寛(すずき・かん)[文部科学大臣補佐官・東京大学・慶応義塾大学教授]
1964年生まれ。灘中→灘高→東京大学法学部卒業後、86年通産省入省。2001年参議院議員初当選(東京都)。民主党政権では文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化を中心に活動。党憲法調査会事務局長、参議院憲法審査会幹事などを歴任。13年7月の参院選で落選。同年11月、民主党離党。14年から国立・私立大の正規教員を兼任するクロス・アポイントメント第1号として東京大学、慶応義塾大学の教授に就任。同年、日本サッカー協会理事。15年2月から現職。
著書に『熟議のススメ』(講談社)などがある。

【鈴木寛(以下、鈴木)】国のレベルでも問題意識はまったく同じですよ。かなり前から「学習指導要領」でも思考・判断・表現の重要性を謳っています。謳ってはいるのですが、国が言うだけではなかなか変わりませんね。

学校の現場でも「思考力・判断力・表現力を養おう」という意識を持って熱心に指導している教員というのは、全体の5~10%じゃないでしょうか。依然として「考える」はメインストリームとはならず、まだ「学ぶ・覚える」偏重なのが現状です。

【津田久資(以下、津田)】何がボトルネックになっているんでしょうか?

【鈴木】それはもうはっきりしていて、何よりもまず「大学入試」です。いまの入試がある限り、どれだけ細かい部分を改革しても難しいでしょうね。

だからこそ「本腰を入れて入試改革をやろう」ということになり、下村前文部科学大臣が、私を今年(2015年)2月から文部科学大臣補佐官に任命されたというわけです。

【津田】大学入試がダメというのは具体的には?

【鈴木】もちろん全部が全部ダメというわけではないですよ。たとえば東大の「国語」とか「世界史」「日本史」「政経」、あと京大の「数学」、このあたりの入試問題はすばらしいですよ。これは世界に出しても恥ずかしくない水準で、海外の入試問題にまったく引けを取りません。

【津田】なるほど。ただ、いくら問題がすばらしくても、受験生側が本当に「考えて」解いているのか、それとも傾向と対策を「学んで」いるだけなのかは、かなり怪しいと僕は思っていますが。

「私大文系」入試が<br />マニュアル人間を生み出す!?<br />――鈴木寛×津田久資対談【第2回】津田久資(つだ ひさし)東京大学法学部、および、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院(MBA)卒業。
博報堂、ボストン コンサルティング グループなどで一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。
現在、AUGUST-A株式会社代表として、各社のコンサルティング業務に従事。また、アカデミーヒルズや大手企業内の研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。表層的なツール解説に終始することなく、ごくシンプルな言葉で思考の本質に迫る研修スタイルに定評があり、のべ1万人以上の指導実績を持つ。
著書に『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』『世界一わかりやすいロジカルシンキングの授業』などがある。

【鈴木】そういう側面はあると思います。でも、もっと問題なのは……「私大文系」なんです。

もちろんここで言う「私大文系」というのは、津田さんの本で言う「東大卒」と同じでシンボリックな表現でしかありませんが、とにかくマニアックな知識を問う難問・奇問を出す大学がかなり多い傾向にあるのは事実です。しかも、そういう大学ほど受験者数が多かったりするから、影響力が大きいんですよ。

「世界史」とか「日本史」の試験を見ても、山川の『用語集』の脚注にしか書いていないようなことが出題されている。こういう試験のためにの勉強をしようとすると、どうしても単なる知識の詰め込みになるし、膨大な時間を奪われてしまうんです。

【津田】どうしてそんなことになってしまうんですか?

【鈴木】それはシンプルで「落とすための試験」だからですよ。つまり、みんなが満点をとってしまうと困るから、「差」をつけないといけない。だから一部の学生しか答えられないような難問・奇問を入れざるを得なくなる、と。

【津田】そうなってしまうそもそもの元凶は、マークシートの選択方式ですよね。論述式にすれば、変な問題を出さなくてもちゃんと差はつくはずですから。

【鈴木】そのとおりです。ただ、論述式というのは学生に敬遠されるんですよね……。

【津田】なるほど。それだと大学が儲からない、と(笑)。