小黒 経済学者などのいわゆる有識者・専門家は8割方が軽減税率導入に反対で、対策は「簡素な給付措置」や「給付付き税額控除」で行うべきだと考えています。しかしこの問題で非常に興味深いのは、世論調査では逆転して、8割くらいの人が「軽減税率を入れた方がいい」と言うんですね。そこにまた政治が反応している部分がある。

飯田 そうですね。結果として、どんどんいろんな話が絡んできて、単純に「賛成・反対」と言い難い問題になってしまった。

「消費増税はもう待ったなし」
「もう少し待った方がいい」

──今のお話にも出ましたが、消費増税そのものの是非も、あらためて議論となるのではないかと思います。

おぐろ・かずまさ
法政大学経済学部教授。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、キャノングローバル戦略研究所主任研究員、鹿島平和研究所理事、厚生労働省参与などを兼任。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。大蔵省、一橋大学経済研究所准教授などを経て現職。著書に『財政危機の深層』『アベノミクスでも消費税は25%を超える』『2020年、日本が破綻する日』など。 Photo:Masato Kato

小黒 消費税はもう上げざるを得ないというのが私の意見です。1997年の5%への引き上げから、2014年4月に8%に上げるまで、約17年かかった。それだけ多大な政治的な調整や葛藤があって、途中政権交代も何回もある中で、やっとできることなのだということが一つ目の理由。もう一つは財政再建のための時間がそんなにあるのかということです。

飯田 ここまで具体的に軽減税率を詰め始めたことで、世の中の議論が増税前提になってしまっているように感じます。僕自身は、先ほど言ったように消費増税には反対ですので、これは非常に問題だと思っています。

小黒 財務省などが出している数字では、今のままで行くと、政府の債務残高が2060年頃にはGDP比500%を超えてしまうような可能性もある。経済学者のもう少し精緻な計算でも、仮に社会保障改革があまりうまく進まないと、2030年頃にはもう消費税を100%に上げないと債務の発散を防げない、つまり財政安定化できないという推計もあったりする。推計なので当然誤差はありますが、そうすると15年後です。そんなに余裕はない。

 現在のところ、景気の面でも悪くない環境になりそうだということもあります。2015年7~9月期のGDP成長率は2次速報値でプラスになりました。実は在庫の積み上がりで上ブレしたという状態なので中身はあまり良くないのですが、一時期よりはだいぶ回復してきている感がある。

飯田 2014年1~3期で需給ギャップがだいたい埋まった後、同年4月の消費増税でまた需要不足が明確になったと言われる。消費税ショックからの回復は、ペースこそ遅いですが16年末~17年頃に終わるのではないかと言われている。せっかく埋まった需給ギャップをまた広げてどうするのでしょう。ある程度景気が良いという状態が1年くらい続かないと、人心地がつかない。人心地つかないと消費は出てきません。その意味で、景気循環で言えば次の拡張期、過熱期に増税を行う方が、本当は良いと思います。

小黒 確かに要注意の点はあります。内閣府が示している景気循環で、もし過去の平均の通り動くとすると、これから「拡張期」が終わって下がっていくことになる。ただ、景気循環の長さはそのときによって違いますから、もう少し長く拡張期が続く可能性もある。