中国株式市場の低迷が続いている。上海総合指数は4月半ば以降、約20%下落した。背景には、他国の市場と同様に欧州危機による世界経済の先行き不透明感もあるが、主因は中国国内にある。金融引き締め、すなわち銀行への窓口指導による融資抑制と、不動産バブル抑制策、そしてさらなる引き締め策への警戒である。「昨年とは逆の回転が始まった」(肖敏捷・ファンネックス・アセット・マネジメント・チーフエコノミスト)。

 そんな状況下で、超大型IPOが行われる。元国営の“四大商業銀行”のうち、最後に残る中国農業銀行の上場が7月半ばに予定されているのだ。

 香港、上海へのダブル上場で発行株式数は最大476億株、資金調達額は200~300億人民元(約2兆7000億~4兆円)。過去最大のIPOである。需給面からはマイナス要因となるのは間違いない。

「当局にもその認識はあり、市場にあまり影響を出さないかたちにしている。財政部と国内の政策ファンドが大きな比率を持ち、市場に放出されるものを買い切るため、影響は大きくない」(小原篤次・みずほセキュリティーズアジア・エグゼクティブディレクター)

 とはいえ、タイミングとしては明らかに悪い。2005~07年に上場した四大商業銀行の他の3行では、上場後株価が大幅に上昇し、06年の中国工商銀行に至っては銀行の時価総額で世界一に躍り出た。だが今回は、株価低迷のなかで目論見どおりの資金を調達できない可能性もある。

 中国農業銀行の上場は、証券市場改革の一環としての側面を持つ。政府当局は3月末~4月、株式指数先物取引と信用取引を解禁し、さらに5月末の米中対話後には、適格外国機関投資家(QFII)にも指数先物取引を容認する方針を示した。現時点では指数先物や信用取引はまだ試験運用段階であり、参加にはきわめて高いハードルが課せられているため、相場への影響は軽微だが、中長期的には価格形成の健全化と、市場の活性化につながるものとして評価できる。

 同行も昨年1月に株式会社化され、上場は時間の問題と見られていた。「外部環境は悪いが、5カ年計画の最終年であり今年中に仕上げたいということだ。銀行の健全化は証券市場開放の大前提だが、20年かけてようやくという感もある。よい節目であり、重要な一石だ」(小原エグゼクティブディレクター)。

 それにしても、“なぜ今”なのか。