昨年、筆者1人で制作している連結会計システム『連結会計工房』のバージョンアップを行なっていたとき、プリントアウトした連結財務諸表を見て懸念するものがあった。それは「ニッポンの会計制度は、国際会計基準IFRSに抗(あらが)っているうちに、『屋上に屋を架す』事態になりつつあるのではないか」というものであった。

 今年(2010年)になって包括利益が導入されるというので、さらなるバージョンアップを行なったところ「とうとう屋下にも屋を架す事態になってしまったか(注)」という思いを強くした。             (注) 「屋上」は井上ひさし『吉里吉里人』による。「屋下」は中国の古典『顔氏家訓』による。

 屋根を何枚重ねようと、その構築物が多重構造であることを、誰もが正確に理解しているのであれば問題ない。しかし、日刊新聞や経済誌を読んでいると、日本のマスメディアは、国際会計基準IFRSとニッポン会計基準の間に生じている軋轢に気づいていないようだ。

 これでは、記事を読まされる読者は「裸の王様」もいいところだろう。経営戦略の展開に悩む企業経営者や、株価ボードを眺める投資家は、とんだ迷惑である。そこで今回は、IFRSの影響により「屋の上下」で構築された多重構造問題を取り上げる。

 第27回コラム(ドンブリ原価計算編)では、東証一部上場企業の98.4%が「裸の王様」ではないか、という問題提起を行なった。今回はどこまで真相に迫れるかはわからないが、メディアやその読者までもが「裸の王様」にされないための注意点を紹介しておく。

理解不能になってしまった
連結損益計算書

 まず、連結損益計算書をまとめたものを〔図表 1〕に示す。出典は、企業会計基準委員会/公開草案第35号『包括利益の表示に関する会計基準(案)』であり、〔図表 1〕右端にあるカッコ数字と式は筆者が加えた。なお、本コラム執筆時点では、いまだ(案)である。

IFRSと日本基準の軋轢は想像以上?<br />日本企業が背負う絶対的なハンデの大きさ

 それにしても、〔図表 1〕はとんでもない様式になってしまったものだ。〔図表 1〕を初めて見る読者もいるであろうから、右端にあるカッコ数字の式を追いかけながら、じっくりと眺めていただきたい。