中国が「人民元の弾力化」を宣言し、2008年夏以来の事実上のドルペッグに終止符を打った。人民元相場はどこに向かうのか。利上げの可能性は消えたのか。中国の大手証券会社、中信証券の徳地立人・董事総経理に聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」副編集長 遠藤典子)

「3%上昇でも打撃はない<br />中国経済高度化にはずみつく」<br />中信証券国際薫事長/中信証券薫事総経理<br />徳地立人 インタビュー徳地立人 (トクチ・テッド)
北京大学卒業、米スタンフォード大学修士。大和証券グループにて投資銀行部門や米国、シンガポール支店などを経て2002年より現職。投資銀行部門を率い、国有4銀行のIPOなどを手がけた。

─人民元レートの見通しは。

 今回、中央政府が明確にしたのは、人民元と海外通貨のレートを固定するのではなく、フレキシブルにするということであり、人民元上昇の“一方通行”ではない。あくまで、通貨バスケット制を導入した2005年7月の「改革」に立ち戻るものだ(リーマンショックで中断していた)。

 中央政府は急速な上昇を認めたくないため、安定的な経済発展に歩調を合わせられるようコントロールすることになろう。1年を振り返ってみれば3~5%上昇したという状況が、1~2年は続く。それが現時点で最も可能性の高いシナリオだ。

─中国企業へのインパクトは。

 3%程度の上昇で中国経済が打撃を被ることはなく、むしろ、マクロ経済的に見て非常にポジティブである。それは発表直後の株価の好反応を見ても明らかだ。

 もっとも、輸出産業への影響は否定できない。なかでも広東省など華南沿岸に集中している中小企業には、もともと収益基盤が脆弱な個人経営も多く見られ、利益が反転したり、廃業に追い込まれたりするなどの影響は表れるだろう。

 だが、それはあくまで一部であって、全容ではない。むしろ、内需に活路を見出したり、輸出先を多様化したり、製品を高度化させたりすることで力をつけた強い企業による淘汰が進み、産業構造転換にはずみがつくことは、政府が志向する方向性にも合致している。

 現在、賃金の切り上げや保障の充実を要求する労働争議が頻発しているが、これも経済の高度化の段階的現象である。今回のアナウンスは中国経済のターニングポイントとして、シンボル的意味を持つと見ている。