第21回から、成長を続けるために磨くべき7つのメタ能力について説明している。今回は「チームワーク」について考えてみたい。

 チームワーク、中でもチームビルディングが主要なテーマとなるが、私が展開するチームビルディング理論は、一般的にいわれるチームの考え方とは少々異なるかもしれない。私はチームビルディングを、リーダーシップの一部としてとらえている。

 時に応じた指揮命令系統は否定しないが、リーダーとフォロワーという階層ではなく、メンバー全員がリーダーとしての自覚を持つチームこそ、最も健全かつ強力なチームであると考えるからだ。

「リーダーの自覚」を皆が持つ
そんなチームこそ理想

本当に強い組織のリーダーは、決して出しゃばらないリーダーが先頭に立って人を巻き込むことからすべては始まる。しかし、ずっと先頭に立ち続けるのがリーダーの役割なのだろうか?

 リーダーは人を巻き込む存在であると説明した。自分一人だけでは、大きな仕事は成し遂げられない、どうしても他者の協力が必要になる。だから、リーダーが先頭に立って人を巻き込むことからすべては始まる。

 他人を巻き込むためのリーダーシップ源泉については前回、すでに説明したが、その中でも最も重要かつ強力な力が、正義・大義・なすべきことの提示による巻き込み、すなわちビジョン提示による巻き込みである。

 私はよく、富士山頂レーダードーム(富士山頂の富士山測候所に設置された気象レーダー。1964年に運用を開始し、1999年に終了した)建設の例を出して説明する。

 富士山頂レーダードームは、伊勢湾台風に代表される巨大台風による災害を繰り返さないために、いち早く台風の接近を察知する目的で建設された。史上例を見ない高地での大規模土木工事で、あらゆる意味で常識破りなプロジェクトだった。

「伊勢湾台風の悲劇を繰り返すな!」というリーダーの号令によって、作業員は皆、意気に感じてこの仕事を始めた。ビジョンへの共感だ。しかし、それはあまりに過酷な作業で、高山病にかかる作業員も続出した。皆の気持ちがだんだんと萎えてくる。

 その時に、現場監督であった大成建設の伊藤庄助氏は、「男は一生に一度でいいから、子孫に自慢できるような仕事をすべきである。富士山こそ、その仕事だ。富士山に気象レーダーの塔ができれば、東海道沿線からも見える。それを見るたびに『おい、あれは俺が作ったのだ』と言える。子どもや孫に、そう伝えることができるのだ」と現場のメンバーを鼓舞した。

 今行っている、この過酷な仕事は、国家的大義を果たすものであると同時に、自らのキャリアにおける金字塔ともなるというメッセージだ。まさに勲章、つまりは自分にとっての徳が見えてくる。

「そうか、子どもたち孫たちに誇れる仕事なのか」と考えれば、自分にとっての意味もわかってくる。他人のためだけでなく、自分や自分の子孫のためだとわかれば、その仕事を継続する力が再び湧いてくる。

 ここまでが一般的な説明だ。

 ところが、あまりに過酷な試練、修羅場に立ち向かい、これを乗り越えるには、これでもまだ足りない。長期にわたって、強い気持ちを継続することは困難だ。自分にとっての損得勘定だけでは、どこかの時点で、「もう、いいや」と思ってしまう、諦めてしまうだろう。

 しかし、自らがこの仕事を引っ張っているという気持ちになれれば、辛い試練にも立ち向かうことができるはずだ。つまり、メンバーの一人ひとりが、リーダーとしてそのプロジェクトを自分事化できる状態にすることが、重要なのだ。

 リーダーシップを突き詰めていくと、自分が立派なリーダーになるというだけでなく、メンバーの一人ひとりをリーダーとしての自覚を持つ状態に導くべき段階が訪れる。

 メンバー全員がリーダー自覚を持つ。これこそが、チームビルディングの真髄なのであるとわかるはずだ。