日本の製造業は外資に買収されてもなお国内で成長できるPhoto by Takahisa Suzuki

 経営再建中のシャープは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による買収提案の検討に入った。両社は2月末までに合意を目指して交渉を本格化させることになる。当初、国が出資する産業革新機構による、シャープとジャパンディスプレイを統合する再建案が優位とみられていた。だが、鴻海がシャープへの出資金額を吊り上げる提案をして逆転した。

 筆者は、ダイヤモンド・オンラインの「2015年を占う5つのポイント」で、「注目すべきは、日本企業をアジアの起業家が買収する動きが始まるかどうかだ。中国やASEAN諸国には、欧米で経営を学んだ若手起業家が存在する。彼らは日本の中小企業の技術力に関心を持っており、円安が進めば買収を検討し始めるだろう。アジアの経営者と日本の技術力の組み合わせは、新たなビジネスモデルの1つとなり得る」と論じていた。筆者の考えに、ようやく時代が少し近づいてきたようだ。

革新機構による産業再編は
「国家による斜陽産業の延命」の再現だ

 安倍晋三政権も、「円安による外資の積極的導入」を「成長戦略」の1つと位置付けてきた。しかし、それは「建前」に過ぎない。安倍首相の「本音」は、祖父・岸信介元首相が若手官僚時代に構想した、国家主導の業界再編策を志向する「産業統制」の実行である(本連載第82回P.5)。例えば、安倍政権の企業に対する再三に渡る「賃上げ」要請には、企業の利潤追求を「悪」とする国家総動員体制の思想があるといえるのではないだろうか。

 また、「成長戦略」としては、産業再編、企業の事業再構築、起業や投資を促進するための法人減税の拡充、海外M&A支援策、イノベーション支援策など「日本企業の国際競争力強化」を支援する方針を打ち出してきた(第89回)。そして、経済産業省は首相の「産業統制」的な政策志向を利用し、かつて一世を風靡した「産業政策」の復活を目指してきた。

 産業再編、企業の事業再構築については、官民ファンドの「産業革新機構」が中心となって進められている。革新機構は、最大で約2兆円という巨額の資金枠を持ち、いわば国家主導で「日の丸」の威光と力を存分に使って、かつて世界を席巻した「ものづくり大国」を復権させようとしているのだ。シャープの液晶部門を分離してジャパンディスプレイと統合し、白物家電などは東芝の事業再編と絡めて、一気に日本のエレクトロニクス産業の「技術流出」を防ぎ、競争力回復を目指そうとすることは、その典型例であろう。

 しかし、革新機構がシャープや東芝などの民間企業の再生に乗り出すことには強い疑念の声がある。「斜陽産業」といわざるを得ない電機業界の再編に、欧米では例のない巨大な「官民ファンド」が関わることで、産業の新陳代謝が阻害されてしまうからだ。