二転三転した末、とうとうシャープの鴻海傘下入りが決定した。果たしてシャープは復活を果たし、「負け犬」状態から脱却できるのか?鴻海傘下入り後の再生シナリオを、朝元照雄・九州産業大学経済学部教授が検証する。

なぜシャープは産業革新機構ではなく
鴻海をを選択したのか

 2月24日に開催した取締役会で支援先の発表を保留し、25日の臨時取締役会で、高橋興三社長(以下、経営陣)は、経営再建の支援先を鴻海(ホンハイ)精密工業と決めた。

鴻海傘下入りが決定!<br />シャープは「負け犬」から復活できるのか高橋興三社長以下シャープ経営陣は、土壇場まで鴻海か、産業革新機構かを決められなかった
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 土壇場まで、採決は混迷を極めた。シャープの取締役は13人。社外取締役5人のうち、2人は優先株を引き受けたファンドの幹部であることが、問題となったのだ。この2人とは、メガバンク出資のファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)の住田昌弘会長と齋藤進一社長。いずれも鴻海案に軍配を上げていた。

 ただ、2人は共に、会社法上の特別利害関係人に当たる可能性がある。JISの持つシャープの優先株について、機構は普通株への転換を、鴻海は簿価での買い取りを提案していたためだ。そのために、決議から外すべきとの意見もあったが、最終的に全会一致で鴻海案が採決された。

 敗れた産業革新機構の案では、3000億円を出資することに加え、主力銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が所有する優先株式2000億円を消却すること、さらに3000億円規模の金融支援を要請する、としていた。

 一方の鴻海は6500億円という破格の出資額を提示。産業革新機構の3000億円の倍以上の金額であり、シャープの株主への説明責任を考えると、鴻海案の方が有利であることは言うまでもない。主力銀行2行にとっても、鴻海の買収案の方が自行にとって利益が大きいのだから、鴻海の買収案を支持することが自明である。

 以上が支援金額を巡る争点だったのだが、再建プラン自体も、鴻海と産業革新機構では大きく異なっていた。

 産業革新機構がシャープの液晶部門を買収しても、ジャパンディスプレイ(JDI)との合併しかできない。つまり、シャープの強みのイグゾー(IGZO)を中心に展開するのではなく、LTPS(低温ポリシリコン)を使った有機ELパネル路線なのだ。そうすると、シャープの強みを発揮することができない。

 産業革新機構の志賀俊之会長兼最高経営責任者(CEO)の「企業投資は再編が前提」との発言(『日本経済新聞』2月9日付)から、産業革新機構の買収案を決めた場合、シャープは約1万人の大リストラを余儀なくされたであろうと思う。

 一方の鴻海はシャープ全社の買い取りで、液晶、白物家電などの事業の切り売りをしないとしている。しかし、太陽電池部門は大幅な赤字のため、この部門は切り離す。鴻海とソフトバンクは昨年、インドで太陽電池事業の合弁会社の設立で合意した。もしかしたら、シャープの太陽電池部門はこの合弁企業に移すということもあるのかもしれない。

 シャープ経営陣の多くは分解案ではなく、企業を一体化した再建を目指していた。この点からも、鴻海の買収案の方が有利である。