こうした出自から、ジョブズは幼少の頃から自分の存在意義を問い続け、心の中は不安定な状態が続いた。若き日に禅にのめり込んだのもそのためだろう。そうした日々を通じて、ジョブズ独特の感受性や直観が磨かれていったのだ。それが時として「こんなものはクズだ」と暴言を吐き、人と激しくぶつかる性格として表れた。しかし一方で、コンピュータや電話の未来の姿を発見する力にもつながっていったのだ。この両面性がジョブズの魅力でもある。

 ジョブズの好きな言葉に、「未来を予測する最良の方法は自分で創りあげることだ」というのがある。未来を創りだす力は今日の一手の中にある。それを誰が打つのかによって、未来の形はいかようにでも変わっていく。そこを他人に委ねるのでなく、自分で打ち手を繰り出せば、未来をコントロールできる可能性も高まるということだ。

iPod以降のアップルは
なぜ飛躍的に成長したのか

 ここで、ジョブズがどのようにアップルの未来を創りだしていったのか、そのビジネスモデルに即して考えてみることにしたい。「企業の目的は顧客の創造である」というドラッカーの考え方に則れば、ジョブズは未来の顧客として誰をターゲットにしたのかについて考えてみる必要がある。それは革新的な製品を真っ先に使ってみたくなる、いわゆるアーリーアダプターであり、彼らを熱狂的なアップルファンに変えることが顧客の創造につながったといえよう。

 そこで、アップルにとっての売上高を定義すると、「売上高=熱狂的アップルファンの数×顧客当り購買額」となる。ここから浮かび上がった2つのファクターに基づき、「革新的な製品を出して熱狂的なファンの数を増やす」「iTunesやアップストアの品揃えを拡充して、一人当りの購買額を増やす」が、アップルにとっての成長ドライバーになっていることがわかる。

 ただし、この二つだけであれば、アップルが「世界で最も価値ある企業」と呼ばれるようにはならなかっただろう。マッキントッシュのパソコンを出したときも、熱狂的なユーザーの心を捉え、多様なソフトを売り込むことには成功した。しかし、事業自体はiPodやiPhoneと比べると、パッとしなかった。iPod以降、アップルが飛躍的に成長したのには、もうひとつのファクターが関連している。それはネットワーク効果である。

 iTunesやアップストアの品揃えが拡充してくると、便利になるため、熱狂的なアップルファンでなくてもiPhoneを使い始める。そして、ユーザーのベースが広がると、アプリやコンテンツのプロバイダーが集まってきて、さらに便利になる。すると、また多くの人がiPhoneを使うようになる。こうした雪だるま効果のことを「ネットワーク効果」という。これがあるために、熱狂的なアップルファンひとりにつき、2倍、3倍の乗数効果が働くようになるのだ。これがiPod以降、アップルの時価総額を飛躍的に押し上げ、世界で最も価値ある企業にのし上がったのだ。

 マッキントッシュの時代は、このネットワーク効果を最も享受したのはアップルではなく、マイクロソフトであった。アップルはいつもアーリーアダプターを惹きつけるところまではうまくいったものの、フォロワーといわれる大衆層をマイクロソフトにさらわれていた。