怒りの炎を燃やし、命がけで生きる

 『週刊金曜日』の2016年2月19日号で、むのたけじが八王子市議の佐藤梓と「70歳差対談」をやっている。学生時代、記者になりたいと思っていた佐藤は、むのの本を読んで衝撃を受けた。戦争責任を感じて1945年8月15日に『朝日新聞』を辞め、郷里の秋田県横手市に帰って週刊新聞『たいまつ』を発行したむのに、自らの存在を揺さぶられたのだろう。

 昨年の春に市議会議員となった佐藤は、自民党会派から出された安保法制への賛成の意見書に反対の立場をとり、1940年に帝国議会で斎藤隆夫が行った「反軍演説」を引いた。

「あなた方の先輩には斎藤議員のような人がいたんですよ」と伝えたかったからである。

 むのは当時、記者席から反軍演説を見ていた。

「ただいたずらに聖戦の美名に隠れて、国民的犠牲を閑却し、曰(いわ)く国際正義、曰く道義外交、曰く共存共和、曰く世界の平和……」

 すさまじい怒号にも斎藤は怯まなかった。小柄ながら張りのある声で斎藤は演説を続ける。

「かくのごとき雲を掴むような文字を並べ立てて、そうして千載一遇の機会を逸し、国家百年の大計を誤るようなことがありましたならば……」

 むのは、斎藤が命がけなのだと思った。

 むのも、怒りの炎を燃やし、命がけで生きている。むのと同じ1915年生まれは、落語家の柳家小さん(5代目)であり、女優のイングリッド・バーグマンである。

 むのは、言葉には話し言葉と書き言葉の2つがあるとし、「あくまでも話し言葉が基本」だとする。肉声が入らないと本当の言葉にはならないところがあるので、「原稿を書くときも、まずはしゃべるようにしている」とか。

「70歳差対談」のタイトルは「人間にとっていちばん大切なのはやっぱり人間だ」だが、70歳下の佐藤ともきちんと向き合えることが、むのの現役の証拠だろう。