マレーシアやトルコなどが見事な経済発展をとげているにもかかわらず、いまだ、イスラム社会は経済発展できないという通説がまかり通っているのはなぜなのでしょうか。イスラム経済についての後編。中東研究家の尚子先生がわかりやすく解説します。
イスラム教と経済発展についての考え方については<前編>で説明したので、今回は具体的な事例としてイスラム金融について触れながら、イスラムと経済発展について考えてみたいと思います。
●関連記事 「イスラム教は資本主義や自由経済を否定しているから経済発展できない」というのは本当ですか?<前編>

コーランでは「神は利子を許さない」
「イスラム教は資本主義や自由経済を否定しているから経済発展できない」という通説が根強く存在していたことは前編で説明しました。けれども、この説を理論的に裏づけすることはできませんでした。
イスラム教はむしろ、経済活動に関して、他の宗教よりも多くのことに言及しています。
イスラム教は、ユダヤ教、キリスト教と比べると最後に生まれた宗教です。イスラム教が生まれた7世紀のアラビア半島では、すでに活発な商業活動が行なわれ、好景気であったといわれています。しかも、創始者であるムハンマドが商人であったことから、他の宗教と比べて、イスラム教では経済活動というものの位置づけがよりはっきりしています。
ところが、コーランの中で「神は商売を許すが、利子(リバー:riba)は許さない」と明言されていることから、イスラム教は「資本主義的ではない」とみなされてきたのです。
実際には利子を禁じたのはイスラム教だけでなく、ユダヤ教、キリスト教にもみられる現象です。ですから中世のキリスト教世界では、ユダヤ人にその役割を担わせていたのです(詳しくは「第二次世界大戦後、なぜイスラエルが建国されたのですか?<前編>」を参照のこと)。
コーランで利子について禁止されているものの、実は、利子の定義については、イスラム法学者の中でも解釈が様々あり、統一した見解はありません。そのため、リバーは「高利貸し」を意味しており、通常の商取引での利子はリバーに該当しないという見解もイスラム初期の段階からあったといわれています。
近代以降、この利子禁止の原則を守ろうとする動きが出てきたのは、1950年代(パキスタン)から1960年代(マレーシア、エジプト)でした。こうした動きは1970年代になってから、湾岸地域にも急速に広がりました。
これは石油の富の蓄積がある程度なされ、西洋的な近代化が浸透したのちの、イスラム復興運動のひとつとして考えられています。つまり、急速に各地でイスラム銀行が受け入れられた理由として、預金者がやはり利子の禁止というコーランの原則を気にしていたためだと考えられるのです。

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