東日本大震災では、サプライチェーンが寸断され、日本経済と国民生活、さらには世界経済にも大きな影響を及ぼした。企業にとっても「サプライチェーン防衛」は火急の課題となった。大震災を受けて変化はあったのか。現在の課題は何か。この問題の第一人者である上原修・日本サプライマネジメント協会代表理事の解説・提言を2回連続でお送りする。

東日本大震災で思い知らされた
「サプライチェーン防衛」の重要性

大震災後、日本企業のサプライチェーンは強靭化したか(上)東日本大震災では、サプライチェーン(供給網)の寸断が大きな問題となった
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 東日本大震災は、日本のみならず世界中に甚大な被害をもたらした。極めて多くの製造業、部品メーカーが被災したため、当然入ってくるべき原材料や部材が急停止し、国内はもちろん、海外の企業の事業にまで影響が及んだのである。

 日本の持つモノづくりパワーが世界に証明された一方で、日本の産業なしでは世界の産業が立ち行かなくなる現実を露呈したのも事実である。同時に日本に依存していては世界が危ないことに気づき、日本離れも加速した。

 逆に言うと、この震災で日本の経営者は、サプライチェーン、つまり供給網の寸断がいかに企業経営に痛手となるかを思い知ったとされる。サプライチェーンの上流を守り、円滑な部材の調達、原材料の仕入れを安定化させるのは、本来、購買調達部門の仕事であるが、大きくマインドセット(思考様式)を変え、全社を挙げて支援しなければならないという、事の重要性、重大性が社内で共有されたと考えられる。

 戦後、経済成長を確実に進めてきた日本経済は、原材料や資材・機材などは、お金さえ払えば当たり前のように入ってくるという長い経験から、その逆(入ってこないこと)は、許される状況ではなかった。一方で、自然災害は不可抗力という言葉を使えば何となく許される環境にもあった。

 しかし、企業を取り巻く経営環境が激変し、経営者がリスクを取る姿勢に変わってきた頃から、危機管理はリスクマネジメント(RM)という表現に変わり、昭和40年代後半から日本でもリスクマネジメントの専門書が企業経営という視点から相次いで出版されてきた経緯がある。不可抗力であっても予期し被害を最小限に食い止め、最短の時間で復旧する経営姿勢に変わってきたのである。

 それは現在にも通じるが、実は、このリスク管理の概念は、顧客志向の多様化・複雑化とグローバル化、製品ライフサイクルの短縮化、地球環境保護、さらには企業の社会的責任といった現代の経営課題とも大いに関連するのである。つまり、経営環境の急激な変化が様々なリスクを伴って企業に襲いかかってくるというわけだ。

 自然災害を単なる不可抗力として逃げるのではなく、自らサプライチェーンを防御・防衛し、自社の顧客に迷惑をかけず、持続的に満足してもらうという姿勢が、リスクをも包含した、企業体の本来の社会的責任でもある。

 日系企業にとって、サプライチェーン寸断にどう対処するかは、喫緊の課題なのだ。