フィリピン 2016年3月14日

フィリピン大統領選がいよいよ佳境に
「孤児」から「ダーティハリー」まで、超個性的な有力候補者たち

復権する”独裁者”マルコス

 そのマルコス大統領が政権を追われたのが、30年前(1986年)の2月25日に起きたエドサ革命。1965年以来21年間続いた独裁政権を打倒し、ピープルズ・パワー革命とも呼ばれる。

 この政変は、上院議員だったベニグノ・アキノ(通称ニノイ・アキノ、マニラ国際空港は彼の名をとってNinoy Akino International Airport(NAIA)と呼ばれる)が1983年、死を覚悟して帰国し、飛行機から降りるタラップで射殺されるという事件に端を発している。

 夫の遺志をついで大統領選に立候補したコーリー・アキノをマルコスが破った大統領選を不正として、ラモス(コーリー・アキノの次の大統領)などの国軍将校がキャンプ・アギナルドに立てこもり、それを民衆が取り囲んで守り、マルコスを国外においやった無血革命だった。

首都圏、マカティのアヤラとパセオデロハ大通りの交差点にあるニノイ・アキノの像【撮影/志賀和民】
首都圏のバイパス、エドサ通りのキャンプ・アギナルドに隣接した広場に置かれたピープルズ・パワー・モニュメント、左端の像が英雄ニノイ・アキノ【撮影/志賀和民】

 先月25日、この革命記念日に現大統領のノイノイ・アキノ(コーリー・アキノ元大統領の息子)が演説で強調したのが、マルコス独裁政権への批判だ。 コーリー・アキノのあと、ラモス元大統領は名宰相と呼ばれたが、その後の大統領エストラーダ(現マニラ市長)とアロヨ(服役中)は汚職にまみれ腐敗した政権だった。

 それを嘆き悲しんだコーリー・アキノが亡くなったのが2009年で、その葬儀は国葬を上回る国民葬となり、全国民がフィリピン最後の英雄との別れを惜しんだ。そのブームに乗って翌年(2010年)の大統領選挙では息子のノイノイ・アキノが圧勝した。そして6年がたった今、マルコスの実の息子、ボンボン・マルコスが副大統領に立候補し、しかも現在支持率1位で、アキノ現大統領が危機感を募らせているのだ。

コーリー・アキノの葬儀では、マニラ大聖堂からマニラ・メモリアル・パークまでの21キロ、8時間の行進に沿道は20万~30万の人々で埋めつくされた【撮影/志賀和民】
コーリー・アキノの娘、人気女優のクリス・アキノが母を語る姿はテレビを独占した

 エドサ革命から30年、国民の半分以上は政変後に生まれた。選挙権を持っている18歳以上の国民の半数近くがこの事件の記憶はないだろう。一方、マルコス時代は「古き良き時代」「フィリピンの黄金期」と再評価されてもいる。これはエストラーダ、アロヨと腐敗政治が続き、現アキノ大統領になってもこれといった変化はないという、国民の率直な感想だろう。

 マルコスのような力強い指導者を期待している面があり、その証拠に、「ダーティハリー」の名をほしいままにしているダバオ市長ドテルテ大統領候補も人気が高い。アメリカ大統領選で共和党候補のトランプ人気に通じるものある。

ルソン島北部、北イロコス地方のラワグ(Laoag)はマルコスの出身地。そこにはマルコスの像が高々とたっている【撮影/志賀和民】
マルコスの廟には、今でもマルコスの遺体が安置されている【撮影/志賀和民】

 マルコス一家の故郷、北イロコス地方およびラワグ市では、今でもマルコス一家の人気は高い。2010年の選挙ではマルコスの妻イメルダが下院議員、息子のボンボン・マルコスが上院議員、娘のアイミーが知事に当選して、まさにこの地方の支配者として君臨した。1990年代、イメルダが亡命先のハワイからフィリピンに戻ってきたとき、人々(とくに貧困層)は「Well Come Ma'am」と唱えて彼女を歓迎した(当時、私の運転手から、このスティッカーを車に張ってよいかと聞かれたことがあった)。

 ベニグノ・アキノが暗殺されて以来、アキノ家とマルコス家は因縁の確執が続いている。2010年の選挙では大統領と上院議員と棲み分けの形になったが、今回はアキノ家は候補者がいないので、マルコス家の息の根を止めようとアキノ大統領は躍起だ。ボンボン・マルコスが副大統領に当選したとしたら、次の選挙で大統領の座を狙うのは目に見えている。そうなれば、マルコス一家とアキノ一家との政争の第二幕が始まるのは必至で、まさに戦国の世を思わせる。

2010年の統一選挙戦のポスター。ここ、ラワグではマルコス一家が健在だ。中央上がボンボンマルコス、その下がイメルダマルコス【撮影/志賀和民】
故マルコスとイメルダがいまだにバレンタインディのモデルに       【撮影/志賀和民】

 フィリピーノには「人を許す」という文化がある。戦後、モンテンルパに収容されていた100人を超える日本軍の戦犯がキリノ大統領の恩赦により釈放され、生きて故郷の地を踏むことができた。この話は渡辺はま子の「あゝモンテンルパの夜は更けて」という歌とともに有名だ(もっとも最近の若い人は「はぁ?」という反応がほとんどだが)。キリノ大統領は日本兵に妻と子供を殺されたが、許すことを美徳とするフィリピン人ならではの決断だった。

 そんな国民性がマルコス独裁の時代をかえって懐かしみ、その息子が副大統領として支持を集めると結果になっているのではないだろうか。

(文・撮影/志賀和民)

著者紹介:志賀和民(しが・かずたみ)
東京出身。東北大学大学院修了後、日揮(株)入社。シンガポールをかわきりに海外勤務を歴任。1989年日揮関連会社社長に就任しフィリピンに移住。2007年4月PASCO(サロン・デ・パスコ)取締役。

 


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