イラクの石油相は日本の支援策を高く評価した。しかし議事録に署名することになった時、イラクの石油相がサインをためらった。この時、イラク側で何が起きていたのか。日本側は誰も気づいていなかった。イラク政府の態度に変化が現れた。日本側が催促しても、具体的な交渉日程を決めようとしないのだ。 

イラクとの交渉が思うように進まない中、バグダッドの空港ホテルを出発する交渉団責任者、新日本石油の大野木龍之介部長。その後、衝撃的なニュースが彼の耳に飛び込んでくることになる。

 まともに連絡が取れないまま迎えた10月。大野木のもとに衝撃的なニュースが飛び込んだ。イタリアの石油会社エニがイラク政府と密かに交渉して別の油田を獲得したというのだ。さらに、アメリカのエクソンモービルも油田獲得で合意したと発表。

 イラク政府は、少しでも有利な契約を結ぼうと外国の企業とも水面下で交渉を進めていたのだ。日本は、こうしたイラク政府の動きを全く掴めていなかったのだ。

 このまま外国企業との契約が進めば、イラク政府は復興資金の目処が立ってしまい、日本と契約する必要がなくなってしまう。大野木は、さらなる支援を経済産業省に訴えた。しかし、経済産業省内では、民間企業の交渉に国がこれ以上肩入れするのは難しいという意見が多数を占めていた。  

イラクの石油相を追って急遽バグダッド入りした経産省石油天然ガス課の平井裕秀課長。2次入札の説明会の会場で、ようやくシャハリスターニ石油相を捕まえた。

 そして先月。マレーシアに経済産業省の平井の姿があった。イラクの石油相がここを訪れていることを知り、駆け付けたのだ。しかし、交渉の継続を訴える平井への石油相の回答は厳しいものだった。

「交渉は白紙に戻した。石油業界は競争の激しいビジネス。日本も国際競争力をつけなければならない」

 5年間にわたり続けてきたイラクとの交渉は、白紙撤回という最悪の結果を告げられた。日本は、一度仕切り直した上で、引き続きナシリーヤ油田の獲得を目指して交渉を続けていく予定だ。

(文:番組取材班 笹山亮) 

取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】

 サッカーのワールドカップ関連番組のため「追跡!AtoZ」はしばらくお休みをいただきました。そし今週の放送はそのワールドカップを彷彿とさせる油田獲得をめぐる厳しい競争の舞台裏を追跡しました。

 イラク戦争後、復興が思うように進まない中、イラク政府は復興資金を手に入れるため、去年12月国内の油田を40年ぶりに開放しました。これまで手付かずだった資源を求めて世界の名だたる企業40社あまりが名乗りをあげます。

 メジャーと呼ばれる欧米の大手石油会社、ロシア、中国、マレーシアなど新興国の国営企業。こうした強力なライバルに敢然と挑戦したのが日本の石油開発会社です。

 日本の石油会社は、原油を精製して販売することが主な仕事で、油田の開発はほとんど経験がありません。ライバルとの差は歴然で、たとえば日本の大手石油会社ジャペックスの原油生産量を1とするとマレーシアの企業ぺトロナスは76倍、オランダのロイヤルダッチシェルは何と168倍です。

 苦戦する日本企業。番組では2つの油田をめぐる争奪戦を紹介しましたが、その結果は、現時点では一敗一引き分けといったところでしょうか。

「そんなに実力に差があるのなら独自に油田を開発するのは諦めて、産油国から輸入すればいいじゃない」という意見もあります。