家でも職場でも怒鳴られっぱなし

 『聞く力』が大ベストセラーになってからも、阿川佐和子はけっこうしゃべっていると思うが、いまから30年余り前、まったくと言っていいほどしゃべらない阿川が隣にいた。秋元秀雄がキャスターの「情報デスクToday」という番組でである。私はゲストとして時々呼ばれたのだが、アシスタント役の阿川は、秋元のそばで緊張して固まっていた。

 『俳句界』の2007年10月号の私との対談で、阿川はそのころのことをこう振り返っている。

「当時、私は30歳でしたが、世の中のことをなんにもわかってなかったですから、ひたすら怖かったですね。家に帰れば父に怒鳴られ、職場では秋元さんに怒鳴られ、悲惨な生活を送っていました」

 読売新聞経済部の記者から転じた秋元に、この番組で私が、「家では粗大ゴミ扱いされる会長や相談役が、会社では威張れるので、いつまでもやめない」と言ったら、「家では粗大ゴミ、会社では生ゴミということだね。生ゴミは会社を腐らせるんだよ」とスパッと返されたのが忘れられない。

 『小説経団連』(講談社文庫)等の経済小説も書いている秋元を、私は骨のあるジャーナリストだと思ったが、当時の阿川は「ひたすら怖かった」らしい。

 会議でも番組でも、機嫌が悪くなると、秋元は机にボールペンを突いて、コツコツと音を立てた。その音だけで阿川は縮みあがったという。阿川やスタッフの取材不足に秋元はイライラしていたのである。

 番組が始まって1年後にアナウンサーの小島一慶が加わるようになり、阿川は小島にこう言われた。

「秋元さんを避けちゃダメ。番組が終わったら、用事がなくても秋元さんの隣に座りなさい。お酌するとか、お茶に気を配るとかして、とにかくそばにいなさい」