社長就任からちょうど1年。上場来初の赤字決算、組織体制の機能不全、国内ビール事業の消耗戦など、逆風が続くキリンはどう巻き返しを図ろうとしているのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

キリン社長が語る、ビール4社体制再編の現実味いそざき・よしのり/慶應義塾大学卒業後、キリンビール入社。2012年キリンビール社長を経て、15年より現職。 Photo by Toshiaki Usami

──昨年3月末の社長就任後の最初の決算(2015年12月期)は、ブラジル子会社で1100億円の減損が発生し上場来初の赤字(473億円)になりました。

 私はブラジルでの買い物が間違いだったとは決して思っていません。想定外の事態が重なったのです。11年に買収したときは、ブラジル経済は好調で、BRICsの一角でした。しかし、13年ごろから資源価格の下落に伴いレアル安が進行します。景気が悪化し、政治汚職まで発覚しました。

 ただ、われわれがこういった外部要因に対応できなかったのも事実です。例えば競合は、景気の悪化に伴って低価格戦略に出てきました。しかし、われわれは正しい戦略を打てなかった。

 キリンホールディングス(HD)の海外統治は、現地に経営を任せる「連邦制」を取っています。オーストラリアやフィリピンはそれでうまくやっていたので、ブラジルも大丈夫だと思ったんです。でも違った。大誤算でしたね。

──撤退はしないのですか。

 しない、とは私は言えません。事業の売却も選択肢の一つです。そうするとしても、ある程度は持ち直さないと売れません。誰も価値のない企業は買いませんから。だから再生が急務なのです。なんとしても今年から始まる中期経営計画内に黒字化します。

──社内からは国内でもガバナンスを問う声が上がっています。キリンHDの下に国内統括の中間持ち株会社キリン(KC)が置かれていますが、役員はほとんど兼務です。こうした非効率な組織体制は機能していないのでは。

 おっしゃる通り、二重構造です。私も兼務ですし、組織上の矛盾を感じています。この構造を解消する日が来るかもしれません。国内の経営資源を配分するなどKCの役割は重要ですが、HDの役割と統合することはできますから。

 ただし、組織を壊すにはエネルギーが必要です。二重構造を解消するのが一番すっきりするんでしょうけど、今のわれわれにはそこにエネルギーと時間をかける余裕がないのです。

 また、海外の子会社対策として、HDを置くことに意味があります。どうやら海外の従業員からすると、全グループ会社の頂点であるHDからの指示の方が、心情的に納得感があるようです。でも正直、私はどうでもいいと思っていますよ。器なんてぼろだっていいんです。中身が重要なんですから。