海外エアラインとの競争が激化し、群雄割拠となっている航空業界。そこから抜け出して主導権を握るのはどこか。幾度もの危機を乗り越えつつ、常に成長を志向してきた伊東信一郎・ANAホールディングス会長に、「リーディングエアライン」実現への道を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 原 英次郎)

「いかなるときも成長へのチャレンジをしてきた」ANA伊東信一郎会長Photo by Kazutoshi Sumitomo

ANAとJALはアジア勢にシェアを渡してしまっている

――今回、伊東会長には激変する航空業界をテーマに連載をお願いしましたが、ANA自身はこれからどう変わろうとしているのですか。

伊東 2013年に持株会社制を導入した際に策定した経営ビジョンで「お客様満足と価値創造で世界のリーディングエアライングループを目指す」と目標を掲げました。その道筋を16年から始まる中期経営計画で示しています。ヘリコプター2機から会社がスタートし、国内線、そして国際線へと事業を拡大していくなかで、ANAは何度も危機に直面し、その都度「現在窮乏、将来有望」と自身を鼓舞しながら苦境を乗り越えてきました。

 最近はあたかも安定した航空会社であるかのように思われることもありますが、これからも立ち止まっていては、ANAの未来はないと考えています。

――「リーディングエアライン」の意味するところはどのようなものですか。

伊東 世界の航空会社を比較してみると、アジアの航空会社は売上高では1兆~2兆円の所に団子のように固まっています。売上高では中国南方航空や中国国際航空が約1兆9000億円、ANAが約1兆7000億円、キャセイパシフィック航空が1兆5000億円、JALが約1兆3500億円でシンガポール航空が約1兆3000億円といった具合です。

 一方でアメリカン航空やユナイテッド航空、デルタ航空など北米勢は売上高で4兆5000億円前後のゾーンにある。そしてルフトハンザやエールフランスなどのヨーロッパ勢は、北米勢より少し小さい規模です。売上高だけで測れるものではないですが、アジア勢の団子状態から頭一つ抜け出したいですね。

 16年~20年度の中期経営計画では、20年度に売上高2兆円越えを目標として掲げています。そのための成長のドライブとなるのは国際線。高い経営目標を掲げて挑みます。目標達成のために、着実に国際線ネットワークを拡充していきます。その延長線上に売上高2兆円規模の達成があると考えています。

――「国際線の拡充を急ぎすぎているのではないか。リスクはないのか」という意見もあります。

伊東 先日の『週刊ダイヤモンド』の特集でも、そのような指摘を受けました(笑)。

 でも考えてみてください。シンガポール航空やキャセイ航空は、国内線を持たずに国際線だけで1兆5000億円近くの売上高を達成しているのです。ところが日本では、ANAとJAL2社の国際線売上高を足しても1兆円程度です。実は日本発着の国際線において、日本の航空会社の便数シェアは30%にも達していません。この程度のシェアしか取れていないのに「拡大し過ぎ」ということはあり得ません。

 むしろ、海外のエアラインに取られているシェアを取り戻すためにも、日本の航空会社は国際線をもっと強化すべきなのです。そうすることで、アジア地域での日本の存在感も増してくるでしょう。

――競争相手はJALだけではない。

伊東 もちろんです。日本発着路線はアジアの航空会社にとってはドル箱です。日本のビジネス客を取り込もうと、最新鋭の飛行機を投入してくる。「寄ってたかって」という表現がふさわしいぐらい競争は激烈です。まさしく、アジアの航空会社との競争力が試される。旅客にしても貨物にしても、こうした近隣諸国のライバルたちとの激しい競争に勝ち残るためには、安全はもちろんのこと、品質やサービス面での努力を重ね、お客様に信頼され愛される会社にしていくしかありません。

――「世界のリーディングエアライングループとしてのANA」という目標は分かるのですが、「ANAの知名度が低い」という意見も聞きます。

伊東 「社名を変えてはどうか」と言われることもあります(笑)。国際線に就航して30年が経ったというのに、海外ではANAが日本の航空会社だという認知は必ずしも広がっていない。社名のどこにも「JAPAN」がないことも影響していると思います。「NIPPON」ではやはり弱く、知名度を上げるのに苦労しているのは事実です。しかし「ANA」そのものを知ってもらえば良いのです。国際線のネットワーク拡充に併せて、ANAのブランド力や認知度向上に向けた取り組みには力を入れていきます。