セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文CEOが退任した。尊敬していたカリスマ経営者だっただけに、退任会見で後継者を悪しざまに言う様子を見て、鈴木氏の老いを感じてしまったのが残念だった。引き際というものは難しいものだ。

 皮肉なもので、鈴木CEO退任のきっかけとなったセブン-イレブンの社長人事は、4月7日の取締役会で否決された案の通り、井阪社長から古屋副社長にバトンタッチされる。予定と違うのは鈴木CEOに代わってホールディングスのCEOに井阪氏が昇格することだ。

 つまり4月7日の取締役会の焦点は、井阪氏を退任させる人事案だったものが、結果として井阪氏の方が残り鈴木CEOの方が退任することになった。権力闘争の視点で見れば、セブン&アイは世代交代が明確になったと受け止めることができる。

ローソンがなかなか超えられない
セブンの圧倒的な商品力

セブンにカリスマ退出で生まれる新たな死角セブンの圧倒的な商品力を作り上げてきた井阪氏。棚には「欲しい」と思える商品が所狭しと並ぶ
Photo:DOL

 さて、カリスマ経営者が退出して経営陣が世代交代することで、王者セブンに新たな死角が生まれることはないのか?

 4月7日に社長交代案が否決された直後にセブン&アイ・ホールディングスの株価はいったん大きく下がるもその日のうちに持ち直し、朝よりも高値で終了。翌日、鈴木CEO退任の発表後は基本的に株価は上向き基調で推移している。

 過去数年のセブン-イレブンの成功要因であるセブンプレミアムを、陣頭指揮で拡充してきた井阪社長の退任が否決されたことが、株式市場的にはプラスで受け止められたわけだ。サードポイントなど大株主も井阪社長の手腕を支持したわけで、その意味で井阪氏が残ったという事実自体が、セブンが弱体化するかもしれなかった危機を乗り越えたと言えるだろう。

 それほど井阪氏が作り上げてきたセブン-イレブンには死角がない。

 実際にセブン-イレブンの店舗に10分間滞在して店内の棚を隅から隅まで見てみてほしい。そうすれば読者のみなさまにもセブンの強さが実感できるはずだ。主に食品関連だが、とにかく消費者の観点で「欲しい」と思える商品がこれでもかこれでもかというぐらいに棚に並んでいる。