橘玲の世界投資見聞録 2016年4月28日

フランスで「極右」政党の候補者が
次期大統領有力候補になる理由
[橘玲の世界投資見聞録]

「極右」の国民戦線が大躍進

 フランスの政治でさらに不可解なのは、「国民戦線(FN)」という政治団体だ。アルジェリア独立に反対したジャン=マリー・ルペンが1972年に結成した政党で、EUからの脱退や、通貨をユーロからフランに戻すことなどを綱領に掲げているが、その中心的な主張は移民排斥で、ユダヤ人に対する差別的な発言などから、日本のメディアでは長らく「極右」とされていた。この言葉から連想するのは、「朝鮮人を殺せ」と叫びながらデモをする団体だろう。

 ところが2002年のフランス大統領選で、ジャン=マリー・ルペンの得票が二大政党の一角である社会党のリオネル・ジョスパンを上回り、ジャック・シラクとの決戦投票になる前代未聞の事態が起きた。このときシラクは得票率82%という地すべり的大勝をするのだが、それにしても“民主主義の母国”において「極右」の候補者が大統領一歩手前になるようなことがあり得るのだろうか。

 ジャン=マリー・ルペンは2007年のフランス大統領選で苦戦し、三女のマリーヌを後継者として11年に政界を引退した。その後、フランス国内のイスラーム社会との確執や難民問題、相次ぐテロ事件などを受けて国民戦線の支持率は上昇し、2014年の欧州議会議員選挙では約25%の得票を得て24議席を獲得、15年11月のパリ同時多発テロ事件直後のフランス州議会議員選挙では第1回投票で全13選挙区のうち6つで首位になった(第2回投票では社会党が、サルコジ前大統領率いる共和党への投票を呼びかけたため第一党にはならなかった)。

 こうした躍進を受けて、2017年のフランス大統領選挙ではマリーヌ・ルペンが決戦投票に残るばかりか、共和国大統領に当選する可能性まで取り沙汰されるようになった。もしそんなことになれば、フランスは「極右国家」になってしまう。

 そこで最近はマスメディアも国民戦線を「右派政党」と表記するようになり、これまで「右派」だったサルコジの共和党は「中道右派」に変わった。こうしてフランス政治は、左派(社会党)、中道右派(共和党)、右派(国民戦線)の三極鼎立になった。

 しかしこの分類はいかにもわかりにくい。「中道右派」と「右派」のどこがちがうのかの説明がないからだ。

なぜ極右政党がヴィシー政権を持ち上げるのか

 国民戦線という政治団体に興味を持ったのは、政治集会で大きく掲げられた、フランス軍の軍服を着た老人の肖像を見たときだ。その老人はヴィシー政権の首領ペタン元帥なのだが、フランス現代史を学校で習ったひとはこれを奇妙だと思うだろう。ヴィシー政権はナチスドイツによってつくられた傀儡政権で、ユダヤ人の弾圧や強制収容所への移送、レジスタンスへの拷問・虐殺などに加担したことから「フランスの歴史から抹殺すべき4年間」といわれている。フランスの国粋主義者が集まる政治集会に、なぜナチスの走狗となった人物の写真が出てくるのだろうか。

 この謎を解くには、1789年のフランス革命にまで遡る必要がある。

 「自由・平等・友愛」を掲げたフランス革命は「旧体制(アンシャン・レジーム)」を打倒し、近代的な民主政治を実現した。これをフランスでは、共和政時代のローマをよみがえらせたという意味で「共和主義」と呼ぶ。ヨーロッパの歴史は中世から戦国時代がずっとつづいているようなもので、「天下統一」とはローマ帝国を復活させることだ。フランス革命によって生まれた共和国は「共和政ローマの正統な後継者」で、ナポレオンがエジプトに遠征し、ヨーロッパ征服に突き進んだのは、自らをカエサル(シーザー)に見たてたからだ。

 しかしこうした共和主義の歴史観は、王党派と呼ばれる旧体制の既得権層と真っ向から衝突した。フランス革命からの100年間は共和政と王政・帝政がめまぐるしく交代し、共和派は「革命の大義を守る」ために、王党派の精神的支柱であるカトリックを政治の世界から徹底的に排除しようとした。これがフランス共和国憲法の根幹にある「非宗教性(ライシテ)」だ。

 フランス国王の系譜が途絶えても、王党派はかたちを変えながら20世紀までつづいていく。彼らは共和主義の価値観のすべてを否定した。

 非宗教性(ライシテ)を廃止してカトリックの信仰や道徳を復活させる。フランス語への言語の統一を緩和し、ブルターニュ地方のブルトン語や南部のオック語など地域性を尊重する。フランス革命の歴史観を否定し、学校ではローマ時代やフランク王国からの「正しい歴史」を教える――これが反共和主義者の主張だ。

ヴィシー時代の映画(2)『ルシアンの青春』
レジスタンス神話の残る1973年に、ナチスの手先として働く田舎の若者を描いて衝撃を与えたルイ・マル作品。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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