橘玲の世界投資見聞録 2016年4月28日

フランスで「極右」政党の候補者が
次期大統領有力候補になる理由
[橘玲の世界投資見聞録]

 

ヴィシー政権の”三本の矢”

 産業革命で資本家(ブルジョア)と労働者階級が誕生し、社会主義や共産主義の理想社会が唱えられるようになると、フランスの共和主義は2つに分裂する。富裕層(プチブル)を基盤とする「古い共和主義」と、労働者や大衆の利益を代弁する「新しい共和主義」だ。第2次世界大戦までつづいたフランス第三共和政は、利害の対立する2つの共和政の微妙なバランスで成り立っていた。

 第一次世界大戦で戦勝国となったフランスだが、ドイツがふたたび国力を増しナチスが台頭すると戦争への不安が高まってくる。このとき政権を担ったのが「新しい共和主義」の人民戦線内閣(共産党が閣外協力)で、首相となったレオン・ブルムは穏健な社会主義者であり、なおかつユダヤ人だった。

 このリベラルな人民戦線内閣が内部の権力闘争で崩壊すると、あとを継いだのは元軍人で反共主義者のダラディエで、こちらは「古い共和主義」の政治家だった。1938年、ダラディエはイギリスのチェンバレン首相とともにミュンヘンでヒトラーと会談し、チェコスロバキアのズデーデン地方割譲を認めた。この妥協は当初、「戦争を防いだ英断」として好意的に受け止められたが、英仏に戦意がないことを見抜いたヒトラーがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦の引き金を引くことになる。

 ドイツに宣戦布告したものの、フランス軍はドイツとの国境につくった要塞(マジノ線)に立てこもった。それがドイツ軍に東部戦線の兵力を移動する余裕を与え、戦車を中心とする機械化部隊の急襲で「鉄壁」といわれたマジノ線はあえなく崩壊、装備に劣るフランス軍は敗走一方となり、ほとんど戦闘がないままに緒戦で勝敗は決した。

 このとき少壮の軍人ドゴールは政府を北アフリカの植民地に移して徹底抗戦を主張したが、第一次世界大戦の英雄でもあるペタン元帥はパリを無血解放し、ドイツ軍が北部(国土の3分の2)を占領することを認めたうえで、南部の非占領地区(自由地区)で政府を存続させる道を選んだ。こうして誕生したのがヴィシー政権だ。

 フランスはなぜ、ドイツに祖国を占領される“国辱的事態”を招いたのか。ペタン元帥らヴィシー派にとって、それは議論するまでもないことだった。戦争勃発まで政権を担っていたのは「新しい共和主義(レオン・ブルム)」と「古い共和主義(ダラディエ)」なのだから、敗戦と占領は共和主義の失敗なのだ。

 こうしてペタン元帥は、共和政を廃止して新しい政治をつくろうとする。これが「国民革命」だ。

 フランス革命の「自由・平等・友愛」に対抗して「労働・家族・祖国」を掲げたペタン元帥の国民革命は、ドイツ軍やナチスの制約を受けながらも、自分たちの政治的理想を実現しようとした。それは端的にいえば、伝統的な「カトリックのフランス」を復活させることだ。

 ヴィシー政権は7月14日の革命記念日を「国民服喪の日」にするとともに、国民革命の第一の矢として政教分離を廃止し、学校で祖国への献身と神への義務を教えることを求めた。カトリック教団には教育権が与えられ、私学助成金を受け取った。

 第二の矢は「家族」で、共和政下の高い離婚率と低い出生率を道徳的悪として、離婚を禁止し堕胎を死刑にする一方で、養育手当てを支給して出産を奨励した。主婦の役割と母性が強調され、すべての女性は操正しく、すべての娘は処女であり、すべての男性は品行法制で、すべての子どもは無垢でなければならなかった。

 国民革命の第三の矢が労使協調的な同業組合(コルポラシオン)で、経済的自由主義を否定し、共同的で有機的な社会秩序を生み出そうとした。ペタン元帥は農家の生まれで、「大地は嘘をつかない」と農村を理想化し、食糧増産の必要もあり農業保護のさまざまな施策がとられた(渡辺和行『ナチ占領下のフランス』講談社選書メチエ)。

 こうしてみるとヴィシー政権の性格がわかるだろう。それは特異な経緯で誕生したとはいえ、典型的な保守・伝統主義の政治を行なったのだ。

ヴィシー時代の映画(3)『さよなら子供たち』
地方のカトリック寄宿学校での友情と別離を描いたルイ・マルの自伝的作品。クラスの転校生は、偽名を使って学校に匿われているユダヤ人の子どもだった…。

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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