患者に優しい日本で医療革新が起きにくい残念な理由日本では米国と比べ、薬剤の開発、商業化、事業化で成功事例が少なくなる。患者に優しい日本で医療革新が起きにくい理由とは

 こんにちは。鈴木寛です。

 3月にアメリカ西海岸を訪問しました。テーマは教育と医療。そこで今回は、医療イノベーションをテーマにしたいと思います。

 訪問先はカリフォルニア州のサンディエゴやサンフランシスコです。いずれも西海岸を代表する都市で、世界最先端の情報通信関連企業、バイオ関連企業、製薬・医療関連企業などが集まっています。シリコンバレーについては説明の必要もないと思いますが、サンディエゴはボストンに次いで全米で2番目となるライフサイエンス産業の世界的な集積地となっています。

 特にサンディエゴの特徴は、UCSD(カリフォルニア州立大学サンディエゴ校)の敷地に接して、NPO立の世界的な研究所が立ち並び、さらに大学周辺やソレントバレーと呼ばれる大変コンパクトなエリアに、バイオ系のベンチャー、世界トップの製薬・医療機器メーカーが集積しています。シリコンバレーは、サンフランシスコからサンノゼまで長い距離があるのに対して、サンディエゴのバイオクラスターは本当にコンパクトなので、主要な関係者との面会が自動車でほぼ10分以内の範囲で完結できるのが特徴です。

 また、カリフォルニアには10校の州立大学があり、どれも全米トップレベルで、多数のノーベル賞受賞者を輩出しています。たとえば、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進教授は、サンディエゴのソーク研究所で研究をされ、ノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥教授も、2012年から州立サンフランシスコ校で研究をされています。

 サンディエゴでは、医療イノベーションとエコシステムについて現地関係者と意見交換をし、東大・慶應の学生も連れてUCサンディエゴの教員と共に医療イノベーションについてのセミナーを行いました。また、UCSDと京都大学医学部による医療シンポジウムに来賓として参加し、サンディエゴ校と千葉大学による免疫に関する共同ラボ設立の協定調印にも立ち会いました。

日本を圧倒する
米国のバイオビジネスへの投資額

 医療について海外の先端研究の現場を見て思うのは、日本の研究者も世界的に負けていない分野がまだあるということです。京都大学、千葉大学をはじめ、交流や連携ができているのはその確かな証と言えるでしょう。

 しかし日本では、その研究成果から薬剤の開発、商業化、事業化の段階になると、成功事例が少なくなってしまいます。その差がどこにあるのかというと、まずはバイオベンチャーの数や投資家の数、投資額の違いがあります。