連載第1回で、書を読み、思索する最上の場所は「馬上、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)」の「三上」だと古代中国の名文家、欧陽修が書いていることを紹介した。「馬上」は乗り物、「厠上」はトイレの中、そして「枕上」は寝床のことだ。睡眠直前に読書する人は多い。しかし、姿勢がむずかしい。そこで読者のみなさまに提案したい。体に負担のかからない枕上の読書には、電子書籍が最適であることを(文中敬称略)。

枕上の読書で頸椎故障

 枕上の読書は日課である。高校生のころから40年以上続けている。その姿勢は長らく腹這いだった。枕の上にアゴを乗せ、敷き布団の前方へはみ出して本を置く。この姿勢がいちばん読みやすい。なお、ベッドでは不可能なので、読書のためにベッドは使わない。そして、そのまま知らないうちに眠ってしまう。灯りはつけたまま、夜中に気づいて消す。こんな繰り返しだった。

 ところが10年ほど前、頸椎がおかしくなった。長年の重いショルダーバッグの携行と寝床の読書の姿勢が原因で、頸椎の4番と5番のあいだがつぶれかけた。枕の上にアゴを乗せているのだから、アゴを上げる形になる。アゴを引く姿勢とは反対だ。つまり頸椎が圧迫されていたわけだ。

 激痛が走り、左手の先までしびれた。この日の夜はよく覚えている。よせばいいのに分厚いマンガを読んでいたのだ。やめられなくなるに決まっている。3時間くらいその姿勢でいたので、一気に悪化してしまった。

 その時読んでいたのは、池田理代子『女帝エカテリーナ』(愛蔵版全1巻、中央公論社、1987年)だった。どうしてはっきりわかるかというと、「国立国会図書館サーチ」で検索して確認したからである。国会図書館にはマンガも大量に収蔵されているのだ。検索結果によると、この「愛蔵版」はB5判で930ページもあった! 頸椎が故障するのは当然だったのだ。

 医師からは「寝床で本を読むときは仰向けで」と言われた。言われなくても痛くてそうせざるをえなくなった。

 仰向けの読書はつらい。本を胸の上に乗せ、枕を頭の下に置く。この姿勢ならばアゴを引く形なので頸椎に負担がかからない。しかし、文庫や新書ならいいが、単行本はけっこう重い。視線と版面を最適な位置にもっていくため、頻繁に動かす必要もある。腹這いの場合は、目の位置を微修正するのは簡単だったのに。

 もだえつつ1年経過、けっきょく枕上の読書時間は激減してしまった。