欧米諸国が自国通貨安による輸出主導の景気回復を目指し、その影響で急激な円高が進んでいる。これを放置すれば日本の輸出企業の競争力は失われ、生産や設備投資の海外シフトがさらに加速し、国内の雇用がさらに減少する「産業の空洞化」が起こると懸念されている。

 日本の識者・マスコミには、政府・日銀が円高阻止の円売り・ドル買いの為替介入も辞さない断固たる対応を取るべきだという論調が多い。しかし日本では、日銀が政策据え置きを決めるなど動きが鈍い。現実的には、政府・日銀にできることが限られているからだ。為替介入は、日本が欧米などとともに、中国に人民元相場の柔軟性向上を求めており、日本が円売り介入に踏み切るのは理解を得にくい現状がある。

円を貿易の決済通貨に使用するための
基盤は整備されてきた

 円高が輸出産業の収益を悪化させるのは、ドルなどの外貨を貿易の決済通貨に使用しているからだ。逆に言えば、円が決済通貨として使われるならば為替リスクはなくなり、円高でも輸出企業の収益は悪化しないということになる。このような、円が貿易の決済通貨として使用されるようになる「円の国際化」のために、日本の財務省(大蔵省)は、法令・制度面の整備を約20年前から少しずつ進めてきた。

「円の国際化」には、国内金融制度の自由化・規制緩和が必要だ。それは大蔵省内や日銀、業界間の対立などの調整に長い時間がかかったが、90年代後半の「金融ビッグバン」で結実した。

 また、97~98年の「アジア通貨危機」の後、財務省、通産省、自民党などで「円の国際化」の議論が始まった。そして、30億ドルの経済支援策である「宮澤プラン」、アジア地域の金融セーフティネット網「チェンマイ・イニシアティブ」など、アジア通貨協力体制の構築に貢献してきた。これらの財務省などの行動を通じて、アジア地域での円流通を拡大する基盤は整備されてきているのだ。