「途中で転職をしなかったので、退職金もしっかりもらえました。転職を考えなかったのは、出世や仕事へのこだわりがなかったからかも。そう考えると、退職金をこれだけもらえたのは、この選択の思わぬメリットでした」(Sさん)

 なお、「仕事にこだわりがない」と言っても、いい加減に業務をこなしてきたわけではないだろう。Sさんの能力は、会社に昇進を何度も要請されたことからも明らか。Sさんも「きちんと仕事をこなして同僚の信頼を得ないと、『仕事ができず昇進できない人』と思われる。それは情けないし、会社に申し訳ない」と言う。

「二流」のポジションで安定するため
会社になくてはならない存在を目指す

 次に紹介するのは、ある企業の経理部門で働くKさん(40代男性)だ。その企業は典型的な「営業至上主義」であり、優秀な人は営業部門へと回される。役職も営業部門に多く、Kさんは経理部門を統括しているが、決して「企業の中での地位は高くない」という。

「若い頃、営業部門に一度行きましたが、ノルマ競争のプレッシャーや過酷さに打ちのめされました。精神的にも追い詰められ、休職を考えたくらいです。そこで経理に回ったのですが、自分としてはそちらの方がずっと適任でした。出世コースに乗らなくていいから、このポジションを維持したいと思いました」(Kさん)

 Kさんの企業は異動が多く、経理は特にそれが激しかった。そこでKさんは「自分がいなくなると、経理部門が困るほどの存在になればいい」と考えた。それは、「自分が出世コース(営業部門)に戻らないため」だった。

「それから今まで、もう10年以上経理のリーダーをやっています。この会社では営業が花形ですが、あの重圧と苦しさは二度と味わいたくない。経理も忙しい時期はありますが、精神的に危うくなるほどの負担はないんです」(Kさん)

 経理部門にいる以上、Kさんの企業では「給料もほとんど上がらない」という。それでも「贅沢をしなければ十分暮らせる」と気にしない。また、彼の妻も「(営業をやっていた頃の)毎日つらそうな表情を見るより、平穏な今の方がずっといい」と話す。

 Kさんの話で大切なのは、彼の社内におけるポジションが“代わりの効かない状態”になっており、「二流」として安定できる状況がつくられていることだ。