>>(上)より続く

財政再建に努力してきた
英独と成長頼みの日本

 英国の動きを振り返ろう。2010年に誕生した保守・自民連立政権は、危機的な財政悪化に対処するため、医療などの一部を除く歳出の25%削減や増税を盛り込む財政再建計画を実施するとともに、従来の仕組みを見直すための予算制度改革を行った。新たに予算責任・会計検査法を制定し、財政再建目標を規定する予算責任憲章を導入するとともに、成長率の予測などの機能を財務省から分離し、それを担う独立機関である予算責任庁を設置した。

 また、財政再建によるデフレ効果を緩和するため、金融を緩和し、法人税改革を含めた成長戦略を実施している。成長戦略は低成長の原因を分析し、具体的な数字が入った実行可能なものであり、各省の希望の寄せ集めである日本のそれとは雲泥の差がある。法人税率引下げにより減収となるものの、歳出削減や他の増税により賄っており、赤字は拡大していない。

 厳しい財政再建により景気は一時的に後退したものの、経済は回復した(図表1および2を参照)。金融危機後の英国の財政赤字は日本より悪かったが、現在では日本より改善し、19年度に黒字化する見通しである。英国は財政再建と景気回復の二兎を達成しつつある。

◆図1 日独英の実質GDP成長率

増税延期の安倍総理に必要なのは<br />二枚舌でなく「謝ること」(下)OECD Economic Outlook No98 Nov2016に基づき作成

◆図2 日英独の一般政府財政収支

増税延期の安倍総理に必要なのは<br />二枚舌でなく「謝ること」(下)OECD Economic Outlook No98 Nov2016に基づき作成

 独は、リーマンショックで悪化した財政を立て直すため、2010年6月、2011から2014年の4年間で総額816億ユーロとなる歳出・歳入両面(歳出削減が全体の約65%を占める)からなる健全化策を策定している。その結果は、2012年には国・地方などを併せた一般政府レベルで財政黒字を達成している。

 さらに重要なことは、リーマンショックを契機として危機直後の2009年7月に、連邦基本法(憲法)を改正し、連邦政府と州政府の財政収支均衡を原則として義務付けるルール(「債務ブレーキ」と呼ぶ)を規定したことである。独の取組みは、EUの財政協定(2013年発行)に取り入れられ、欧州各国は財政収支均衡の原則ルールを、憲法ないし国内法に規定することが義務付けられた。つまり、英独に限らず、今回のサミットで日本の立場に比較的好意的だった仏伊でも、安易な財政出動はできないのである。