「AV産業」とひとくくりにして
業界全体を悪魔化している

かわな・まりこ
1967年、東京都生まれ。女子美術短期大学卒業後、出版社デザイン室勤務、フリーライターを経て、1999年に31歳でスカウトされたのをきっかけにAV出演。デビュー作『義母~まり子34歳~』がヒットとなり、熟女ブームのはしりとなる。2004年、AV界を引退。2011年、『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビューし、以後、官能小説、ホラー小説、怪談実話などのジャンルで精力的に執筆活動を続けている。近著に『女之怪談』(ハルキホラー文庫)、『嫐』(竹書房文庫)、『寝盗られ妻』(竹書房ロマン文庫)などがある。

中村 04年までは路上スカウトも合法でした。川奈さんの場合はそれが不幸中の幸いだったようですが、当時は女性を騙したり、脅してAV出演させる、みたいなことは本当によくある話でした。今でいえば人権侵害じゃないかと思うような被害は山ほどあったし、『名前のない女たち』でも何人も記事にしています。90年代からAV業界にかかわっている人なら、誰でもその感覚はあるはずですよ。

川奈 そうだったんですか。ただ、プロのスカウトマンは警察沙汰になるような危ない橋は渡らないと思います。メリットよりもデメリットが大きいですから。私が業界内で大問題だと思ったのが、プロダクションのピンハネですね。1本で何百万ものギャラを稼いでいるはずの女優さんがその日の食べ物に困るぐらい貧乏していたり…。彼女の所属するプロダクションがギャラの大半を持っていっちゃうんですね。

中村 メーカーからプロダクションに支払われる出演料をAV女優に知らせない風習みたいなのがあるし、嘘の金額を教えるプロダクションもある。それに監督官庁がある事業ではないので、AV女優に手渡す出演料はプロダクション次第。ちなみに、川奈さんは、その恐喝被害から助けてくれたプロダクションからAV女優としてデビューしたんですか?

川奈 はい。もともとセックスは好きだったし、プロダクションと契約した後は「あの男抜きだったら出演してもいいかな…」ぐらいに心境は変化していました。夫の溜池ゴローと出会ったのもAVの面接です。そこで彼に「君のビデオを見て何千人何万人の男がおちんちんをしごくことになると思うけど、どう思う?」と聞かれて、私も思わず「女冥利につきますね!」って答えたんです(笑)。

中村 そういった女性の感覚を理解できるまでに何年間か、かかりました。不特定多数の性的対象になることが嬉しいという女性は少なくないようです。自分自身が視られて何万人の男がしごいていたら、女性本人は確かに痛快ですよね(笑)。

川奈 ええ。そもそも、AV女優は「個人事業主」なので、外部委託先であるプロダクションやメーカーとは対等な立場です。事前に台本や出演内容やギャラを聞いて、面白そうだと思ったら自分の意志で出演する。私の場合、そのルールがしっかりと守られていたので楽しくお仕事することができました。

中村 AV女優をとりまく労働環境は、プロダクションの良し悪しによるところが大きいです。僕は1996年からAV女優とAV業界の取材をしていますけど、やはり女性への搾取の構造や今でいう人権侵害は、やっぱり歴史的にはあったわけです。自分の経験を顧みると、HRNがAV業界を攻撃するのもわかる気がします。

なかむら・あつひこ
1972年、東京都生まれ。アダルト業界の実態を描いた『名前のない女たち』(宝島社)、『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)など著書多数。フリーライターとして執筆を続けるかたわら介護事業に進出し、デイサービス事業所の代表を務めた経験をもとにした『崩壊する介護現場』(ベスト新書)が話題に。近著に『ルポ 中年童貞』(幻冬舎新書)、『女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル』(朝日新書)など。最新作『図解日本の性風俗』(メディアックス)では、日本経済と風俗との関係を丁寧に解説している。

川奈 ですが、「悪いところばかりを見る」というのが問題です。もちろん被害がゼロとは言いません。年間約2万本ものAVが発売されて、被害報告は4年間で130件。ところが、HRNの報告書ではAV業界が日常的に女優への搾取を行っているイメージで書かれていて、AVメーカーも制作側もプロダクションも「AV産業」とひとくくりにして業界全体を悪魔化しています。業界のことを何も知らない人がこの報告書を見たら「AV業界ってなんて酷いところ」と思うでしょうし、そうした偏見が職業差別に繋がる可能性だってあるわけです。

中村 ただ、AVは法律ギリギリの非日常が求められる特殊なメディアでもあります。反社会的な作品を提供するほどユーザーには喜ばれますが、そのメディアの性格がAV業界のイメージ悪化につながっています。15年前より以前は、そうしたニーズに合わせようと、リスクを覚悟して違法である盗撮や野外露出など頻繁に撮っていました。「視聴者のためのサービス=リスクの高い撮影」なわけです。それが一つひとつ摘発されて、時間をかけてAV業界は基本的に違法には手を出さなくなりました。15年前と比較するとAV業界はつまらなくなった反面、驚くほどホワイトになっています。今のような状況になるとは、当時は夢にも思わなかったですね。