型破りな発想で知られる社会学者のリチャード・フロリダ氏は2002年に、地域経済を「創造的階級」の台頭という観点から分析し、世界の知識層のあいだで賛否両論の渦を巻き起こしました。あれから8年。今なお新鮮な論点を、当時のインタビューで振り返ります。(※本稿は2003年10月発行の「LOOP」に掲載されたインタビューです。文中のデータ、肩書などは当時のまま再掲載しています)

芸術家の集積度を測った「ボヘミアン指標」、外国人住民の比率である「メルティングポット指標」など大胆な物差しで地域経済を分析するリチャード・フロリダ氏は、技術中心のクラスター論の痛烈な批判者だ。文化人を含む創造的階級の集積こそ地域振興の最善策と説く都市経済学者に、その根拠を聞いた。

――既存の産業クラスター論のどこが間違っていると思うのか。

richard florida
Richard Florida(リチャード・フロリダ)
1957年生まれ。型破りな発想で知られる社会学者。『The Rise of the Creative Class』(和訳本『クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭』ダイヤモンド社刊)では、地域経済を「創造的階級」の台頭という視点から分析、賛否両論の渦を巻き起こした。現在はトロント大学で教鞭をとっている。

 イノベーションに関する経済成長論や知識資本主義理論はすべて、テクノロジーが経済発展を促し、地域開発をもたらし、企業のパフォーマンスを向上させるとしている。だが、現実は違う。たとえば私の地元、ピッツバーグは見渡す限りテクノロジーだらけの都市だ。大学も多く、教授1人当りの研究補助金額や研究開発の生産性はケンブリッジやシリコンバレーを上回るくらいだ。ところが、そのテクノロジーが経済成長をもたらさなかった。

 私は、これまでの知識資本主義理論は正しくないと気がついた。では、何か間違っているのか。私が行き着いたのは、テクノロジーとは「クリエイティビティ」というもっと大きな人間活動の単なるサブセットではないかということだ。

 イノベーションとは技術的なクリエイティビティのことであり、起業家精神とは経済的なクリエイティビティのことだ。ほかにも、芸術的、文化的、政治的なクリエイティビティがある。大きな経済発展を成し遂げた場所は、すべての面でクリエイティビティを備えたところなのだ。私はこうしたクリエイティビティをもたらす創造的階級の集積こそが大事だと考えている。

――あなたのいう創造的階級は具体的にどのような人たちで構成されているのか。

 創造的階級の中核部分にはスーパー・クリエイティブコアと呼ぶに値する科学者、エンジニア、研究開発者と、アーティスト、ミュージシャンなどの文化的クリエイターがいる。そしてその周りに知的労働者がいる。

 ただ誤解を避けたいのだが、これはエリート主義ではない。先進国では30~35%の人びとが創造的階級に属してはいるが、残りの人びともすべてクリエイティビティにおける潜在的可能性を持っている。資本主義の先にあるシステムを探し当てるキーは、あらゆる人間が創造的グループに属すのだという事実を認識するところにある。