>>(上)より続く

 そしてあの日。哲也さんの人生はこの日を境に、大きく変わってしまったのです。それは台風が上陸する前日でした。横殴りの雨が吹きつけ、アパートの近くに止めてある自転車は、すべてなぎ倒されていました。

 そんな悪天候の日曜に彼女が姿を現したのです。哲也さんは「安心介護の田中サービス」の軽自動車に駆け足で近付き、窓ガラスをコンコンと叩きました。車のなかには、やはり彼女がいました。

 彼女の目は血走っており、しかめっ面をしてこちらを睨み付けてきたそうです。

 彼女が運転席のドアをガチャンと開けて、車から出てくると哲也さんは唾を吐きかけんばかりの勢いで「いい加減にしてくれないか!迷惑してんだよ!!」と言ったそうです。

 しかし、彼女は哲也さんの目一杯の怒号に屈せず「アンタ、この責任どうしてくれるのよ。『一緒になれたらいいね』なんて口ばっかり。アタシを騙しといて、どういうこと!」と言い返してきました。

 さらに彼女は哲也さんの胸にもたれかかり、体を預けてきました。哲也さんは思わず、「ふざけるな!」と彼女を振り払いました。そして彼女の両肩を軽い力で、押したのですが、そのはずみで彼女が車のボンネットに体をぶつけてしまい、「イターイ!」と倒れこんでしまいました。彼女が転ぶ際に、地面についた腕は、みるみるうちに赤く腫れ上がっていきました。ひざには擦り傷がついていました。

 哲也さんは慌てて、「大丈夫か」と声をかけたのですが、そのとき、空気が一変します。体格の良い男性2人がいきなり、ビルの陰から姿を現し、哲也さんの両腕を掴み、そのまま締め上げたのです。それは私服の警察官でした。

 呆然とする哲也さんをそのまま警察官はパトカーの中に連れていきました。哲也さんは「自分の身に何が起こったのか」理解不能でした。暴行罪による「現行犯逮捕」でした。

ストーカー被害を受けていたはずが
ストーカー加害者に、さらに職場では…

 その後、警察署で、およそ信じられない、耳を疑うような話を聞かされました。彼女は以前から何度も、警察のストーカー対策室に相談していたそうなのです。哲也さんに暴力を振るわれ、脅かされ、とても困っている、と。さらに、彼女が別れたいと何度も言っているのに哲也さんが執拗に付きまとい、ストーカーまがいの行為をしている、と。