アラブ 2016年7月19日

教えて! 尚子先生
エジプトやシリアになぜキリスト教徒がいるのですか?
彼らはカトリックやプロテスタント、正教とはどう違いますか?【中東・イスラム初級講座・第34回】

さまざまな教派が存在する中東のキリスト教

 レバノンだけでなく、中東のキリスト教にはじつにさまざまな教派が存在しています。

 キリスト教というと、冒頭でも紹介したように、カトリック、プロテスタント、ギリシャ正教ぐらいならご存知でしょう。ですが、中東のキリスト教について語ろうとすると、この3つだけではとうてい理解できません。

 中東のキリスト教徒の中で最も人口が多いのは、正教とカトリックだといわれています。この正教とカトリックだけでも、コプト正教会、シリア正教会、アルメニア正教会、東方正教会、マロン派カトリック、メルキト派カトリックなどがあります(まだありますが、このくらいでやめます)。さらに、正教とカトリックのほかに、プロテスタントの諸派や東方アッシリア教会なども存在していますので、いかに多様な教派があるのかがうかがえると思います。

 このように多様な教派を有しているキリスト教ですが、たとえ中東で暮していたとしても、この多様性をなかなか感じることは難しいでしょう。彼らの細やかな差異に気づかなければ、ほとんど場合、「キリスト教徒」として一括りにしてしまいがちです。

 ところが、すべての教派とまではいきませんが、中東のキリスト教の多様さを一度にみることができる場所があります。それは、キリストの遺体が埋葬されたといわれているエルサレムの聖墳墓教会です。

 聖墳墓教会は、カトリック教会、東方正教会、アルメニア使徒教会、コプト正教会、シリア正教会による共同管理が行なわれており、各教派が場所、時間などを細かく区切って礼拝を行なっているため、様々な教派をかいまみることができるので、あらためて歴史の重みと多様性を感じることができます。

 教派が分かれていく歴史は後で説明しますが、こうした教派の違いは、外見からも見分けることができます。たとえば、正教では偶像崇拝にあたるとして、聖人やマリアの立体像を作ることを禁じています。立体像ではなく、平面画のイコンが飾ってあれば、それは正教の信徒であり、聖母マリアの立体像ならばほぼカトリックと推測ができます。

 また、飾ってある聖人から教派を推測することも可能です。レバノンに多いマロン派のカトリックでは、教祖である隠遁者聖マロン(三角の黒い頭巾の白髪の老人)がイコンに記されていることが多く、エジプトのコプト正教では聖人たちの肌は浅黒く、聖人の顔には眼が大きくて丸顔という特徴があります。

 このように多様な教派については、私たち日本人にはほとんど馴染みのないものでしょう。では、いったいどのようにして、こうした教派が生まれたのでしょうか? 

聖母たち/サフィータ,シリア【撮影/安田匡範】

教派が生まれた背景は?

 そもそもキリスト教はユダヤ教を母体として成立しており、歴史的にはユダヤ教に端を発しています。イエスの死後、使徒であるパウロらの伝道によって、キリスト教は紀元1世紀半ばごろから、中東から広くローマ社会にも普及していきました。

 当時のローマ社会は多神教で、皇帝こそが神であるという世界観であったために、キリスト教の世界観とは相容れないものでした。そのため、当初、ローマ帝国ではキリスト教は迫害され、イエスの一番弟子であるペトロやパウロも、皇帝ネロによって迫害され、殉教します。

 キリスト教を迫害してきたローマ帝国でしたが、313年にはコンスタンティヌス帝が、迫害しても絶えることのないキリスト教を「ミラノ勅令」によって、公認宗教として認めます。この背景には、分裂の危機にあったローマ帝国の紐帯(ちゅうたい)を強化するという目的もあったようです。

 キリスト教はその約70年後の380年には国教と定められ、その後、キリスト教以外を認めないという異教禁止令まで発布されるのでした。

 ところが、国教化によって急激に信徒を増やしたために、キリスト教内部で問題が発生します。たとえば「キリストは神か、人間か」という問題や、「マリアは神の母なのか」というなどといった論争が深刻化したのです。

 こうした信仰に深くかかわる論争を話し合うために、皇帝が各地の有力な聖職者を集めて話し合いをひらいたのが「公会議」です。以後、このような信仰上の問題についての会議の開催を高位聖職者ではなく、皇帝が呼びかけるようになったのです。つまり、キリスト教は国教となったことで、ローマ皇帝という世俗の権力と結びついていくこととなりました。

遠望/サフィータ,シリア【撮影/安田匡範】

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