陥りがちな思考の罠に迫る「カイゼン!思考力」。今回は、数学的帰納法の誤用を取り上げる。

――問題です

 以下の議論の問題点は何でしょうか

A氏「我が社は1兆円の売上げを誇る大企業だ。利益も1000億円以上ある。しかし、今後とも無駄なコストは1円たりとも使うつもりはない」

B氏「でも、それじゃ従業員も息が詰まりますよ」

A氏「いや、経営とはそういうものだ」

B氏「ではこう考えてください。Aさんの会社の利益は1000億円を超えます。そこで1円くらいのコストが余分にかかっても、相変わらず1000億円以上の莫大な利益が残ります」

A氏「まあ、それはそうだ」

B氏「莫大な利益から1円を引いても莫大な利益は残るというわけです。そしてその残りから1円を引いても相変わらず莫大な利益だ。つまり、少々の額にこだわるのは無意味と思いませんか?」

A氏「しかし、君の理屈で言うと、1円ずつ引き続けていくと、利益はどんどん減っていってしまう。しまいには、莫大な利益とは言い難くなるんじゃないのか?」

B氏「…」