前回は、老後破産を回避するために、来年改正される確定拠出年金(以下、DC)をフル活用しようというお話をしました。活用するといっても、忙しいオヤジ世代自らが資産運用について自分自身で勉強し、意思決定し、そして実践するのはそうたやすいことではありません。そこでDC導入企業が、従業員が安心して老後資産の形成を任せられる投資信託を「デフォルト商品(企業型DCの加入者が運用商品を何も選ばないときに自動的に選択される運用商品)」として設定することで、彼らの資産形成をサポートする動きが今後増えてくると思われます。

 DC先進国のアメリカでは、「デフォルト商品」としてライフステージを意識して運用する「ターゲット・イヤー型ファンド」という、ある意味で資産運用会社にフルでお任せするファンドが広く普及しており、日本でも今般の法改正をにらんで、同様の動きが見られ始めています。一方で、アメリカと異なり、資産運用会社の知名度や社会的地位が確立していない日本においては、まだ資産運用会社に資産運用をフルでお任せすることに抵抗感を持つ人も多いでしょう。

 そこで今回は、このマイナス金利の環境において、自分自身で資産運用を実践する際の留意点について、まとめたいと思います。

投資対象すべてで期待リターンが低下

 2016年1月にマイナス金利政策が導入され、預貯金はもちろんのこと、他の資産の期待リターン(将来見込めるリターン)も下がってきています。日本国債の場合、マイナス金利の導入以降、長期金利も下がってしまったため、長期国債の期待リターンはかなり低くなっています。実際、2016年5月末時点では期間15年を超えると債券の利回りはプラスになりますが、それ未満はマイナスの利回りとなっています。これは債券を購入して償還まで持ち切ると損失が出ることを意味しているため、債券の魅力は大きく低下していると言えます。

 でも、影響があるのは債券だけではありません。株式などのリスク資産の期待リターンも下がっているのです。株式などのリスク資産の期待リターンは、一般的に長期国債(短期国債の場合もある)よりも高いリスクを取ったことで、どれだけ高いリターンが得られるかを表す「株式リスク・プレミアム」を、長期国債の利回りに加えることで算出されます。仮に「株式リスク・プレミアム」水準が同じなら、長期国債の利回りが下がれば、当然、株式の期待リターンも下がることになります。他のリスク資産も同様なので、マイナス金利政策の導入は、資産運用全体の期待リターンの低下につながっていると言っても過言ではないのです。