超一流と一流では、努力の仕方にこれだけ差があった「超一流」と呼ばれる人は、一流の人とも何が違うのでしょうか

「超一流」の人を目にすると、私たちは「あの人は生まれつき才能に恵まれていたんだ」と思い込んでしまいがちだ。しかし、超一流の人たちが超一流になりえたのは、本当に生まれつきの才能が要因なのだろうか。

チェス、バイオリン、テニス、数学……など世界中のトッププレーヤーたちを、30年以上にわたって科学的に研究してきた「超一流」研究の第一人者、アンダース・エリクソン教授。そんな教授が、著書『超一流になるのは才能か努力か?』でもまとめた、世界中から大きな注目を集めた研究結果を紹介。研究結果から導き出された「超一流」への鉄則とは?

超一流と一流では、努力の仕方にこれだけ差があったアンダース・エリクソン Anders Ericsson
フロリダ州立大学心理学部教授。「なぜどんな分野にも、超一流と呼ばれる人が存在するのか」という疑問から、30年以上にわたり、スポーツ、音楽、チェスなど、あらゆる分野における「超一流」たちのパフォーマンスを科学的に研究。そこから、どの分野においても、トッププレーヤーは必ずある共通の練習法を採用していることを突き止め、それを「限界的練習(deliberate practice)」理論として発表した。
Photo by Magnus Bergstrom

 私がドイツのマックス・プランク研究所にいた、今から30年前のことです。

 研究所の目の前にはベルリン芸術大学がありました。そのなかでも音楽系の専攻は、その教育内容、学生の質ともに抜きん出ていて、今でも世界トップクラスの大学です。毎年、この音楽専攻から、世界で活躍する「超一流」のピアニスト、バイオリニスト、作曲家、指揮者が輩出されていて、卒業生の中には20世紀を代表する音楽家が何人もいます。

 しかし、そんな大学でも、全ての学生が「超一流」というわけではありません。たとえば、バイオリン科の学生の中には、卒業後に世界的ソリストになるのが確実な、「スーパースター」と呼べるような生徒がいる一方で、ソリストのプログラムを受験したものの不合格となり、音楽教員を目指すコースにしか入学できなかった学生もいるのです。

 もちろん、教員コースの学生も、ふつうの人と比べれば、とても高い技術を持つ演奏家であることは間違いありません。しかし、大学へ入学した時点で、既に両者の差は歴然としており、彼らが歩むであろう人生の道のりは、大きく分かれているのです。

 では、彼らの能力、ひいては人生を分けたものは一体何なのでしょうか。