ユニークなパントマイマーだったマルセ太郎も、いま私が一番シャープなお笑い芸人だと思う松元ヒロも、永六輔が“発見”して世に出した人である。しかし、共にその名を知っている人はそう多くはない。松元ヒロなど、永だけでなく立川談志も大推奨しているのに、テレビで見ることはほとんどない。

「絶対テレビには出せない」種類の笑い

 評判を聞きつけてヒロのライブを見に来た何人かのディレクターが、終演後、「いやあ、ヒロさん。おもしろかった。しかし、絶対テレビには出せない」と異口同音に感想を述べるとか。

 マルセ太郎や松元ヒロの笑いが忌避されるのは権力への毒を含んでいるからである。永は自ら足を運んで、そうした笑いを発見してきた。

 松元ヒロと私の共著『安倍政権を笑い倒す』(角川書店)で、ヒロがマルセ太郎との出会いを語る。

 マルセは、猿のマネをして、猿はなぜああいうポーズをとるのかといったことを理詰めで笑いにしていた。しかし、強面の風貌もあって、なかなか売れない。そんなマルセのライブをヒロはよく見に行っていたが、マルセは1回だけしか来てくれなかった。

「また来て下さいよ」とヒロが言ったら、マルセは「いや、1回見ればいい」と答える。「どうしてですか?」と食い下がると「僕は、思想のないお笑いは見たくない」と言われた。ヒロは、「自分の思想を押しつけるだけがお笑いではないでしょう」と反発したが、「思想のないお笑い」という言葉はヒロの頭から消えなくなった。もちろん、そう言ったマルセも悩んでいたのである。その著『芸人魂』(講談社)によれば、だんだんとステージの仕事が減ってきて、スナックのマスターが本業のようになっていた。

 小さなライブスペースで月に1回やる独演会の客も次第に減っていき、客が1人だけということもあった。ゼロになったら、これもやめようと考えていて、ネタにも困り、ある時、窮余の策で映画の話をすることにした。

翌々日に速達で届いた葉書

 観たばかりの『瀬戸内少年野球団』と以前観た『泥の河』について、アクションをまじえて話したのである。その日の客は10人くらいだったが、中に高い声で笑う人がいた。