インバウンドに詳しい事情通は「このときイオンは、たった1日で2億円を売り上げた」と語る。4000人の中国人観光客の購買力、恐るべし、である。「一定の居住者数が見込める地域に出店するイトーヨーカ堂の戦略に対し、人のいないところで新たに商圏を構築するイオンのやり方が奏功した」(同)とも言えよう。

 だが、地元民の思いは複雑だ。消費はほとんどがイオンに落ち、地元には落ちなかったためだ。鳥取県で運輸業を営む経営者は当時をこう振り返る。

「自治体は観光客を迎えるため、バスをチャーターしたまではよかったが、観光客を乗せたバスはみんなイオンに向かってしまったのです。“鳥取県の予算を千葉県(イオンの本拠地)のために使う”という、後味の悪い結果となりました」

 他方、イオンでは爆買いが一段落した今、「モノ」だけでない「コト」にも目を向けている。同社広報は「体験重視のツアーにも力を入れていきたい。有機農法による芋掘りやイチゴ狩りは中国やタイの観光客にも人気で、地元の生産者支援にも結びつきます」(同)と話している。

潤っているのは100社程度

 家電量販店、百貨店、スーパー、ドラッグ、アウトレット、ショッピングモール、免税店――日本にはこうした流通小売業態が数え切れないほどある。これら流通小売業界では、爆買いの中国人客を取り込もうと“あの手この手”を算段するところも少なくない。

「銀聯カード決済の導入」、「中国語スタッフの採用」、「中国人客向けの特別サービス」は金払いのいい中国人客を引き込むための“必須3要素”。中でも銀聯カード決済の導入は中国人客がもたらす莫大な消費と切っても切れない“神器”だ。

 だが、この“神器”を据え付けても千客万来とはいかない。黎明期からインバウンドビジネスに携わってきた業界の重鎮はこう明かす。

「銀聯カード決済で中国人客の消費にあやかっているのは、多く見積もっても100社程度でしょう」

 このコメントが示唆するのは「爆買いの恩恵に浴した企業はごく一部」だという事実である。

 インバウンドビジネスは同じ商圏でも明暗が分かれる。中国人客狙いで店舗を立地させても、必ずしも繁盛店になるとは限らない。

 一方で、最近は国や自治体の“旗振り”も目立つが、便乗したところで果たして勝ち組になれるのかどうか。「儲かると当て込んだものほど成功例が出にくい」(前出の業界の重鎮)とも言われている。ましてや、その恩恵を全国津々浦々に広げるのは難しい。

 インバウンドビジネスは一部に限定された商機なのか。慎重な見極めが必要だ。