人口構造の変化と経済パフォーマンスとの関連が、注目を集めている。最近では、日本経済の長期的な不調は、人口減少と密接に結びついているという議論がなされている。

 このテーマについては、古くからさまざまな議論があった。比較的最近のものとして、「支出の波」(Spending Wave)という考えがある。これを提唱したアメリカの株価分析者ハリー・デント(Harry Dent)は、「個人支出は45歳くらいにピークを迎えるので、40代半ばの人口の変化と景気や株価動向が相関する」とした。そして、この変動をスペンディング・ウエイブと呼んだ(The Great Boom Ahead、1993)。また、移民が入国するのは30歳くらいの時なので、その変動に14-15年を足したものが、やはり支出の波をもたらすとした。この議論を応用して、デントはつぎのような主張をした。

 1930年代の大不況の時には出生率が低下した。それから45年目は、1970年代から80年代初めになる。したがって、この時期にアメリカの経済が不調になる。確かに、歴史的に見て、アメリカ経済はこの頃不調だった。

 他方、アメリカは1957年頃に「戦後ベビーブーマー」出生のピークを迎えた。また、移民のピークが1990年代にあった。したがって、2007年頃までの期間に株価のブームが訪れることになる。現実にも、確かにアメリカ経済はこの時期に空前の活況を経験した。そして、08年の株価下落は、ベビーブーマーのピーク支出期間が終わったためということになる。

 このように、デントの考えは、きわめて簡単な論理で、アメリカ経済の長期的変動を見事に説明している。

日本の没落を
スペンディング・ウエイブで予言

 デントは、日本の没落を予言したことでも知られている。

 彼は、つぎのように論じた。日本の出生のピークは1930-40年頃なので、スペンディング・ウエイブのピークが1990年頃に訪れる(注)。そして、それ以降は、経済が下り坂になるはずだ。

 デントがこの予測を発表した1980年代は、日本が破竹の勢いで世界経済を制覇しつつあった時代である。それにもかかわらず「日本が没落する」と予測したわけだ。そして、確かに日本経済は、1990年頃をピークとして長期的な衰退過程に陥ってしまったように見える。

(注)正確なデータは、つぎのとおり。1935年から40年までの出生数は、年180-200万人程度であったが、48-50年には230-250万人程度となった。