企業間の競争は、価格や生産量をめぐるものだけではない。それは生産費用を低下させるための研究(技術)開発、販売促進のための広告、製品多角化や差別化、さらには流通経路の整備など、さまざまな局面に及んでいる。

 お金を出せばすぐに新しい技術を開発できたり、商品の認知度が高くなったりするわけではなく、これらの活動は、成果が出るためにはある程度の時間がかかるという意味で、長期的な戦略である。そしてその成果が、価格や生産量をめぐる短期的競争の環境を規定するのである。今回は、長期と短期の競争「戦略」について考えてみよう。

 ここで「戦略」とは、自分の行動に関する相手の予想に影響を与えることによって、相手の行動を自分にとって有利な方向へ向かわせることである。

 市場には代替的な財を供給する2つの企業、自社(企業1)とライバル(企業2)が存在し、最初(第1段階)に、企業1が長期戦略の水準を決定し、その成果が実現した後(第2段階)に、それを所与として各企業が短期戦略(価格または数量(市場シェア))を決定するという状況を想定する。

 この状況で、短期的競争が価格をめぐって行われるか、数量をめぐって行われるかで、長期戦略の効果が異なるのである。それは、価格か数量かによって、ライバルの反応が違ったものになるからだ。

広告の効果がもたらす
二つの帰結とは

 まずはじめに、長期戦略として広告を考えてみよう。企業1は、第1段階で広告を出すことによって、自らが供給する財に対する需要を増やすことができるとする。この広告は、ライバルの財についての需要に何ら直接的な影響を及ぼさない。また第2段階で、各企業は供給量を決めるものとする。