(3)話せるようになっても自分を見失わない

 3つめは、2つめとも関連しますが、たとえ上手に話せるようになっても、自分を見失わないということです。

 研修講師になって5年ほど過ぎた頃から、私は人前で話すことに抵抗がなくなっていました。数百人を前にした講演もさほど緊張せずこなせるようになっていました。ところが、あるパネルディスカッションのパネラーとして参加したときに、予期せぬことが起こったのです。

 ディスカッションのテーマは、特にむずかしいものではなく、他のパネラーも旧知の間柄の人ばかりでした。研修や講演のように特に準備の必要もない「ラクな仕事」のはずでした。

 300人ほどの参加者を前にして、パネラーが壇上に上がり、自己紹介に続いて、一人ひとりがディスカッションの口火を切る発言を始めました。私の順番は終わりのほうだったのですが、他のパネラーたちの発言を聞いているうちに、私は奇妙な緊張感に襲われたのです。

「私の発言は他の人と比べられるに違いない」「他の人と同じようにいいことを言わなければない」――。そんなことを考えた瞬間、私の頭の中は真っ白になりました。

 結果は最悪です。自分の順番になり、発言したときにはもう何を言っているのか、自分でもわからないほどでした。他のパネラーから発言を求められたときには、もう頭と口がまったく別人のように、勝手にまとまりなく話していました。

 この出来事は、口ベタコンプレックスを克服したと思っていた私にとって、大きなショックでした……。

 このディスカッションの後で、私はとても大事なことに気がつきました。

 私は口ベタコンプレックスを克服していなかったから失敗したのではなく、口ベタコンプレックスを克服した自分を「実際以上によく見せなければ」という考えてしまったから失敗したのです。

 口ベタに悩んでいたときの自分も、口ベタコンプレックスを克服した自分も、同じ私という人間です。どんなときでも自分を見失ってしまってしまうとコミュニケーションはうまくいきません。

 いつも自分らしく自然でいること。これもコミュニケーション上手になるためのひとつの条件だと思います。

<今回をもちまして当連載は終了となります。ご愛読いただき、ありがとうございました>