>>(上)より続く

 早速、誠さんは有給休暇をとって会社を休み、隣県にある彼女の実家を訪ねたそうです。インターフォンを押すと対応してくれたのは彼女の母親でした。

 誠さんは「きっと不審に思われるだろう。その場で怒られても仕方がない」と覚悟をして気を張っていたのですが、しかし、実際には「うちの娘が迷惑をかけて……」と母親がすまなそうな感じで話しかけてくれたので、拍子抜けしたそうです。母親は怒るどころか、むしろ誠さんを気遣ってくれたのです。

 誠さんは、彼女が父方の祖母の家に隠れていると母親から聞き、母親は誠さんに対して「娘(彼女)に早く戻るよう」伝えることを約束してくれたのです。誠さんは母親との間で前向きな話をすることができ、ホッとしたそうです。とはいえ、実家の玄関先では緊張しっぱなしで気まずかったので、用件が終わると足早に立ち去ろうとしたそうです。

 しかし、誠さんには予想外の展開が待っていました。突然、母親が娘(彼女)の愚痴をこぼし始めたのです。「小さい頃から本当に困った子でねえ。ちょっとでも気に入らないことがあると、見境なく食ってかかる性格なのよ。相手が誰でもね」

 常識的に考えれば、自分の娘は欠点や落ち度、短所は隠しておきたいもの。それなのに母親が自らカミングアウトし出したのです。しかも、誠さんが一切、相槌、返事、共感をしていないにもかかわらず、どんどん話を畳み掛けてきたそうです。

「これは娘が大学4年のときの話ね。ちょうど就職氷河期で、なかなか就職が決まらず、大変だったわ。娘は証券会社を希望していたんだけど、大手はことごとく断られたのよ。娘はあろうことか、その企業の一つに脅迫状のような手紙を送りつけたそうなの。後日、人事の人から、うちにお詫びの電話があって分かったことなんだけど、その企業から訴えられなかっただけ、不幸中の幸いですよ」

 母親から彼女の悪しきエピソードを聞くにつれ、誠さんは背筋がゾッとして嫌な汗が流れるのを感じたそうです。なぜなら、母親の話は誠さんが彼女から受けた仕打ちと酷似していたからです。

同棲再開も何も変わらず
ささいなことから彼女が包丁を取出し

 誠さんはその足で祖母の家を訪ね、彼女と面会しました。誠さんが終始、低姿勢で接したのかが良かったのでしょうか。彼女は「そろそろ戻ろうかと思っていたの」と約束してくれたそうです。もちろん、「私の何が悪いの!」と言わんばかりの態度だったようですが。こうして彼女は悪びれることもなく、誠さんとの同棲を再開したのです。

 しかし、彼女は『相変わらず』で、反省したり、改心したり、言動を改めようとする気配はなかったそうです。もちろん、彼女が上、誠さんが下という力関係もほとんど変わらず、たびたび彼女がヒステリーを起こすという日々でした。