もしも「財政赤字が10%増えたらインフレ率が1%高まる」というような関係があれば、MMTも採用可能かもしれない。「インフレにさえならなければ財政赤字は問題ない。インフレが始まったら直ちに緊縮財政を始めればいい」といえるからだ。

 しかし、実際にはインフレは地震のようなもの。地震は、地殻の変動によってエネルギーが徐々に溜まっていき、ある時突然にそれが地震として解き放たれるが、MMTでも「財政赤字によって徐々にインフレの潜在的なエネルギーが溜まっていき、ある時突然にそれがインフレとして解き放たれる」のである。

 したがって、財政赤字が続き、政府の借金が膨らむほど「万が一の場合の被害」が大きくなり得る。もっとも、地震と異なり、日本の財政赤字の場合は永遠に何も起きない(つまり結果としてMMTが正しかった)可能性もゼロではないが。

緊縮財政するリスクとしないリスクの比較が必要

 筆者は、MMTを無条件に肯定しないが、かといって「財政赤字は何としても縮小すべきだ」と考えているわけでもない。

 日本の場合、財政赤字を続けてもインフレ懸念が買い急ぎを誘発して、インフレが自律的に加速していく可能性はそれほど高くない。一方で、緊縮財政を採用した場合には、景気が腰折れして景気対策が必要となり、かえって財政赤字が増えてしまう恐れがある。

 したがって筆者は「日本の場合、10年待てば労働力不足が進展し、増税しても失業が増えない時代が来る(拙稿『令和が日本経済の「黄金期」になる理由』をご参照)のであるから、それを待ってから増税すればいい」と考えている。

 このように、日本についての結論だけを見ると「緊縮財政に反対」というMMTと似たようになっている。しかし、決して「財政赤字は全く気にする必要がない」などと考えているわけではない。

 日本以外の多くの国については、日本と比べて「インフレが自律的に加速していく可能性が高い」ため、MMTは危険である。仮に日本でのMMTの「実験」が成功しているからといって、他国でも成功するとは限らないのだ。